テニス部の女子-1
「ねえ、ホモ坊主。」
昼休みに声をかけてきたのは一組の女子のセラフィーマだった。
「殴るぞ。」
慈縁はいま食べ終わった弁当の包みをしまいながら、内容のない若者言葉の意味で反射的に呟いた。
小学校は別だったから、セラフィーマは中学からの知り合いである。それも、テニス部なのでよくは知らない仲だった。慈縁より少し背が高く、綺麗な顔立ちをしていたが、右と左の目の色が違っていて、それが初対面の人を驚かせた。
「あんた、女子の生理が臭いとか言ってるそうだけど、やめなさいよ、そういうの。お坊さんなんでしょ。」
「お坊さんじゃねえよ。生理って何。」
慈縁は本当に知らないのだった。人づてに聞いた話に先入観で脚色していたと、セラフィーマが却って恥ずかしくなった。
「女子が臭いのは嘘じゃない。僧侶は嘘は言わない。」
「ホモなお坊さん、女子のどこが臭いのですか。どう考えたって男子より清潔だよ。何にも知らないくせに。」
「全部。玉ねぎが腐ったみたいなにおいがする。」
「男子だって臭いよ。」
「お前、何しに来たんだよ。」
「あ、コンパス貸してくれる? 忘れちゃった。」
セラフィーマは、クラスの違う男子である慈縁のところに、よく物を借りに来た。忘れ物がもともと多いのだそうだ。借りる相手が遠ければそれだけ借りやすいのだと言っていた。慈縁は言葉を間に受けて、詮索しなかった。
「すぐ返せよ。お前、人に借りた物も忘れてくるから。」
「ありがと。ねえ、あたしも臭い?」
「分かんねえよ。俺は外で遊びたいんだから、早く行け。」
スポーツで鍛えたセラフィーマの、細身の後ろ姿がスキップで教室を出ていった。