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ヴィーナスの思惑
【SM 官能小説】

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ヴィーナスの思惑-9

ミチオは唇の内側をゆっくり湿らせると、鼻先に差し出されたハイヒールに両手を添える。
それは初めてあの人に触れることができた素敵な瞬間だった。彼女の体温や脈拍を、ハイヒー
ルに触れたミチオの指が敏感に感じ取っていた。ミチオは、エナメルの黒い光を吸い込むよう
に微かに唇を開き、唾液を含んだ舌をすっと差し出す。ハイヒールの側面にふるふると舌先を
這わせ、尖ったヒールを唇の中に含み、舌を強く擦りつける。

ミチオは悦びに震え、背筋に痺れるものを感じた。ミチオのものが貞操帯の中で熱を持ち始め、
幹の芯に麗しい血流が喘ぎだそうとしていた。舌はまるでペニスのように尖り、捩れ、弛緩を
繰り返しながらハイヒールに絡んでいく。

そして、ミチオは彼女の脚に魅せられたようにふらふらと彼女の細い足首に頬を寄せた。彼女
のからだの中から漂ってくるものを抱きしめたようにからだの芯がゆるんでくる。
ストッキングに包まれた脚のくるぶしを頬で撫でたとき、彼女のからだの、隅々の匂いが音を
奏でながら頬肌に滲み入っていく。

彼女の脚の肌艶がミチオの中に甘美で禁欲的な感傷を誘ってくる。彼女のすべてが美しく彩ら
れ、彼女の肉体の下に見え隠れする残酷さが濃さを増していくのを感じた。ボンデージに包ま
れた彼女が濡れた睫毛でふちどられた濡れた瞳を細め、瞳の中にしめやかに染まった色彩を見
せたとき、彼のなかに浮遊し続けていた見えない感情が溺れるように淫らになっていく。


女性に恋することと、女性に支配されることは似ていると思うことがある。差し出された脚に
愛撫を繰り返すことは、自分があの人に支配された美しい瞬間だと思った。彼のすべての触覚
とも言えるべきものが彼女に向かっていた。

あの人はミチオを縛め、虐げ、頬を打ち、顔に唾を吐く。もしかしたら憎悪と言えるくらい
残酷で毒々しい仕打ちをするに違いない。あの人に身も心も残酷に支配されるということは、
痛みであり、息苦しさでありながら、ある種の甘美な快感であり、それはとても素敵な恋と
言えるものと思うようになったのは間違いなかった。

ミチオはそのことを初めてあの人に感じたのだった。


あの人は、ほどよく括れた腰を包んだボンデージの股間を開くとゆっくりと煙草に火をつけた。
彼女の冷酷で可憐な瞳がミチオにはとても貴重なもののように思えた。彼女はゆっくりと煙草
をふかしながら言った。気が利かない男だわ。灰皿を持ってこないと燃えた灰があなたのから
だに落ちてしまうわ。なにを探しているの。灰皿ってあなたの舌でしょう。口をあけるのよ。

ミチオは彼女の唇から洩れる紫煙を頬に感じながら、彼女の指先に挟んだ煙草からこぼれ落ち
る熱灰を伸び切らせた舌で受け止めた。それはとても幸福な苦痛の瞬間だった。舌の上で唾液
とともに溶けた灰は彼女の唇から洩れた棘のような雫にさえ思えた。

あの人は鼻で微かに笑うと、指に摘まんだ煙草をミチオの滑らかな胸肌へゆっくりと近づけた。
煙草の先端が彼の薄紅色の乳輪をゆっくりとなぞり始める。焼けた煙草の熱が、ミチオの乳首
の皮膚を剥いでいくような鋭い苦痛をもたらす。不意にこぼれた熱灰が乳首の先端にはらりと
絡みつく。

…あうっ…うぐぐっ…

口の中に溜まった唾液が微かに開いたミチオの唇から洩れる。彼女は煙草の先端で彼の乳首を
燻しながら笑った。その笑みはとても美しく、限りなく透明で純粋な冷酷さを孕んでいた。


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