ヴィーナスの思惑-7
あと戻りはできなかった。あの人以外に彼の貞操帯を取り外すことできる人はいないのだから。
ミチオはすがるような気持ちで彼女からの連絡をずっと待ち続けた。カフェであの人を探した
が、彼女があらわれることはなかった。
ミチオは焦った。貞操帯の鍵があの人の手に渡り、ミチオの欲望をかなえてくれることを祈り
続けた。彼女からは何の連絡もなく二週間が過ぎた。そして三週間が過ぎたとき、あの人から
ミチオ宛にメールが届いたのだった。
携帯に届いた彼女からのメッセージは、ミチオを《与えられたもの》として彼女が受け入れる
ことを告げていた。あの人はミチオの手紙を読み、貞操帯の鍵を手にしたのだ。ミチオはから
だの中がさらさらと音をたて始め、血流の管が強ばりながら冴え冴えとした色彩を含んでいく
のを感じた…。
十七歳のとき、ミチオが初めて《与えられたもの》となった女は父親が連れてきた継母だった。
彼女は、五十歳半ば頃の年齢で街の酒場でホステスをしていた女だった。顎と下腹のに肉が
弛んだ、肥えた継母は、化粧の濃い顔や垂れた乳房の谷間、そして病的なほど白い太腿に浮き
上がった蒼い血管から淫蕩な性を感じさせた。
ある日、継母のいない部屋に忍び込んだミチオは、彼女が脱ぎ捨てた黒い下着を愛おしく手に
取った。下着が含んだ、生あたたかい淫猥な彼女のぬくもりが、ミチオの指の先を強ばらせた。
滲み入った湿り気がほんのりとした翳りを含み、翳りはやがてまばゆい鱗粉となってミチオの
瞳の中にまぶされていった。
ミチオが初めて手にした異性の下着だった。彼は、継母の淫らな乳房に潜む、生あたたかいざ
わめきを嗅ぎ取るようにブラジャーに鼻をあて、滲み入った乳汁の匂いを夢中で吸い込んだ。
爛れた果肉の汁ような匂いが鼻腔を酔わせ、彼の中を甘美に掻きまわす。そして、精緻な刺繍
が織り込まれたショーツに唇を触れる。滲んだ染みの痕がなぜか彼を未知のものへと誘い込も
うとしていた。
ミチオはショーツの染みの痕を唇でなぞりながら、熟れすぎた匂いを放つ、継母の恥丘を想い
描いた。彼がこれまでけっして立ち入ることのできなかった淫蕩の窪み。窪みの中で、飛沫を
あげて踊り狂う継母の蜜液は、彼をうぶで卑猥な男だと烈しくなじっていた。なじられるほど
に彼は継母の下着を貪るように嗅ぎ続け、酩酊をともなった欲情の疼きを滴らせ、ペニスの
肉芯に瑞々しい血の濁流を注ぎ込ませたのだった。
そのとき、突然部屋に入ってきた継母は言った。
あなたって、変態だったのね、継母はミチオを見下すように言った。彼女はミチオの頬を打ち、
侮蔑の唾を彼の頬に吐いた。その瞬間から彼は自分が彼女に《与えられたもの》であること、
そして、彼女を無防備に受け入れなければならないというある種の不思議な予感を意識したの
だった。
あなた、女の人を知らないんでしょう…。父親のいないその夜、継母はミチオの鼻先に濃い煙
草の煙を吐きながら言った。彼女が彼を卑下し、侮蔑と嘲笑の言葉を吐くほど、彼はなぜか彼
女を無性に欲望した。継母の厚い唇に滲んだ潤みと、垂れた乳房の谷間に澱んだ汗の匂いが
同時に漂ってきたとき、ミチオは、自らがこの女に与えられるという密やかな感覚は、彼が
初めて得た、自然な心と肉体の欲望以外に何ものでもなかった。