ヴィーナスの思惑-11
彼女の手先から垂れた鞭が、ゆっくりとミチオの背中を這い、臀部の割れ目を探る。彼は目を
閉じて、鞭に伝わる彼女の息づかいだけを肌に感じとろうとした。不意にあの人はミチオの傍
からすっと離れていく。
その瞬間…
ビシッー… あぐぐっー
鋭い痛みが背筋を走る。唇から迸るように嗚咽を洩らしたミチオは大きくのけ反り、からだが
海老のようにしなる。
ビシッー、ビシッー
次々と振り下ろされる鞭が重厚な音をたて彼の背中を襲い、肌に蛇の牙が喰い込んだような鋭
い痛みがからだ全体に広がる。部屋に響きわたった鞭の重い音とともに、一瞬、張りつめた緊
張した空気が部屋に漂う。彼女は、手加減することなく、彼のからだに何度となく鞭を振り下
ろす。
ビシッー、ビシーッー …あうっ、うぐぐっーっ…
胸郭を大きくのけ反らせ、烈しく身悶えするミチオの唇の端から、呻きとともに唾液が糸のよ
うに滴る。彼女は微妙な強弱をつけながら、巧みに鞭を振る。蛇の鱗のように編まれた鞭の表
皮がミチオのからだに吸い付き、肌を赤い条痕で刻んでいく。部屋の淡い灯りが悶え苦しむ彼
の姿態の影を壁に浮かび上がらせる。彼女が振り上げる一本鞭は容赦なく彼の臀部や背中、そ
して太腿に襲いかかった。
ビシッー… ひいっ…
しなやかに伸びてくる鞭が、うねり、たわみ、身悶えするミチオの裸体に絡む。腹部や臀部が
くねり、胸を大きく波うたせながら、彼は咽喉元を烈しくのけ反らせる。
あの人にもっともっと痛めつけられたいと思う欲望が次から次へと湧いてくる。あの人がもっ
と欲しかった。あの人に心の奥まで毛を毟られるように烈しく貪られたいと思ったとき、彼の
中にどろりとしたものが滲みだし雫のように滴った気がした。
あの人はミチオのからだに寄り添うと毒々しい光に彩られた指でゆっくりと彼の肌に刻まれた
赤い条痕をなぞった。彼女の爪が鞭痕の溝に喰い込んだとき、夥しい震えが彼を襲った。ミチ
オの苦痛を煽り立てる彼女の指爪はどこまでも狡猾で、獰猛すぎるくらい残酷だった。震えは
胸肌や背中、臀部の肌の毛穴を揺らがせながらも愛おしい精の匂いを放った。
彼女の手のひらが膨らんだ垂れ袋を包み、尖った爪先が睾丸をまさぐりながら鋭く喰い込んで
くる。珠玉がころころとなぞられるとミチオのものは貞操帯の中で烈しく喘いだ。すでに苦痛
はただの苦痛ではなく、《支配された苦痛》は彼女の慈しみそのもののような気がした。
あの人は満足したように目を細めると、ゆっくりとミチオから離れ、ふたたび大きく鞭を振り
上げた。
ビシッー… 縦に大きく振り下ろした鞭の先端が、鋭く光を遮り、ミチオの臀部の割れ目に深
く喰い込み、棘のような烈しい痛みとともに肉芽を削ぐ。