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そうこうしてる間に、画面ではすでに男と女の絡み合いが始まっていた。
男と抱き合いながら、一心不乱にキスを交わす岬はるか。
おそらく身長はそんなに高くないのだろう、背伸びしながら一生懸命舌を絡ませている姿が、健気でグッとくる。
ズッ、ジュル、とか、互いの唾液が交わる音と、男が身体を撫でる際の衣摺れの音がやけに響き渡る。
俺もこんなキスをしてみてえ……。
口の中で舌をこっそり動かしてみる。
舌を絡めあうキスって、どんな感じなんだろう。
それを観ているだけで、俺の身体の中心が鈍く痺れてくるのだった。
「……なんか、汚い」
すると、一気に冷める桜井の声。
彼女は少しだけ顔をこちらに向けて、嫌悪感をあらわにした表情を浮かべた。
「口の周り、ヨダレでベトベトじゃん。あんな汚いキス、よく出来るよね」
桜井は本心からそう思っているようで、眉間にシワを寄せながら、ばっちいものを見るような顔つきでテレビ画面の方を顎で指した。
俺が普段お世話になっているこのDVD。
それを冒頭からバカにされるなんて、ムカつくことこの上ない。
だけど、真っ向から批判されると何も言えなくなってくる。
俺はエロいことに興味があるからこういうシーンを汚いなんて思わないけれど、客観的に見れば、赤の他人が唾液を絡ませながら舌を互いの口の中に入れ合う行為は、ただ気持ち悪いものにしか見えないのかもしれない。
桜井を見てたら、それは正論そのもののような気がして、俺はだんまりするしかできなかった。
「こんなので興奮するなんて、マジありえない」
心底バカにしたような視線で画面を見る桜井に、小さくため息が出る。
やっぱりこういう勝負でも、俺は桜井に勝てないのかな。