第2話 早熟への誘い-1
「母さん!・・・陸ちゃんが来てるの?」
さらに、扉の向こう側からは、息子の呼ぶ声が聞こえてきて、間近に迫るのが分かった。
さすがに彼も、これには焦ったのだろう。
突然目を見開いて我に返ると、いきなり私の両脚を握る手を離した。
そして、再び正座をして、元の体勢に戻っていた。
ただ、膨らみを帯びたままの為か、不自然なくらいに両脚を閉じていた。
ガチャッ!・・・・・・
間一髪だった。
息子の大地が部屋の扉を開けた時には、私も元の様に彼と向かい合わせになり、脚を横に崩した状態で正座していた。
「やっぱり陸ちゃんが来てたんだね」
息子は、特に気に留める事無く私達に話しかけてきた。
「え・・ええ・・・少し前に、あなたに用事があるからって訪ねてきたのよ」
私は、平穏を装うのが精一杯で、会話が上の空になっていた。
さらに彼の方を伺えば、頭を下げたままで、息子の言葉に耳を傾ける状態では無かった。
やはり、今しがたまで行為に及び、快楽の渦中に居るとすれば、突如と割り込んできた息子に動揺するのも無理もない。
言うなれば、留守の間に妻を寝取って、その現場に旦那と出くわした心境にも似てるのだろう。
「陸ちゃんどうしたの?。具合でも悪いの?」
彼の様子がおかしいのはあからさまで、息子はすぐに気づいた。
「あっ・・・ごめん。ちょっとお腹が痛くて・・・・・・」
「そう・・・陸人君がお腹が痛いって言うから、お母さん介抱してたところなのよ」
咄嗟に言った、子供らしい彼の嘘だったが、それに構わず私も口裏を合わせた。
ただその瞬間に、お互いがマッサージとしての行為では無く、不適切なものと認めた事にもなる。
つまり、息子には言えないほどの、ある意味での不適切な関係。
それを思うと、私の胸の動悸は、さらに激しさを増していた。
「陸ちゃん大丈夫?。薬でも持ってこようか?」
息子は彼の事が心配で、歩み寄って覗き込むように話した。
「それなら、お母さんが持ってくるから、少し待っててね」
「おばさんもう大丈夫だよ。多分、お昼に少し食べ過ぎただけだと思う。だから、もう心配しないで下さい」
私は、薬を取りに行こうと思って立ち上がったが、彼の言葉を聞いてその場に立ち止まった。
むしろ、彼の虚言と知ってるだけに、演技をしただけの事だった。
ただ、彼が別な意味で苦しいのは違いなかった。
あの時、息子の部屋に戻るタイミングがほんの数秒でも遅かったら、彼は間違えなく迎えていただろう。
それはそれでばつは悪いのだが、ただ彼の行き場を失った欲求を考えれば、少し気の毒さえ思えた。
「あら・・・そうなの?。だったら私は、この辺で失礼するわね。でも、あまり無利しちゃ駄目よ。それと・・・大地の分もコップが置いてあるから、自分で注いで飲んでね」
私はそう言うと、まるで逃げる様に足早に部屋を出た。
とにかく、この緊迫した空気から早く逃げ出したかった。
そのまま私は、すぐに寝室へと向かった。
とりあえずは一人きりになって、今までの状況を改めて整理する為だった。
それでも、寝室に入ってからも止む事のない激しい動悸。
振り返れば混沌とし過ぎて、何から手を付ければ良いか分からず頭がパニックになっていた。
まずは落ち着きを取り戻そうと、私はダブルベッドの上に腰を下ろした。
その瞬間に、彼の行為により溢れ出ていた感触が、冷やりと伝わった。
そう・・・手始めに、私をここまでにした、彼の行為の経緯を振り返らなければならなかった。
初めは、彼が何気なしに私の履いてるストッキングに興味を示して、いきなり触った事から始まった。
彼の子供の好奇心と思えば軽く流せたのだが、明らかに意識している性的な感情。
ここで一つ問題視にしなければならないのは、彼の性的意識が何に捉われてるのか。
それが私の履いてるストッキングに対してなのか、それとも私自身なのか。
少なくとも彼の目的は、息子の大地を訪ねて来たわけであって、私自身とは限らなかった。
ただ、ここで予想外にも訪れてしまった二人きりだけの空間。
彼が初めから計画したわけでもなく、偶然のシチュエーションだった。
そして、私の履いてるストッキングに魅せられた彼は、衝動に駆られて思わず触りたくなったのだろう。
その証に、彼のストッキングを触る行為は、尋常でないくらいに狂気に満ち溢れていた。
ならば、その答えはハッキリしていた。
彼のストッキングに対する、異常なまでの性癖。
俗に言われる脚フェチとも考えられるが、彼の触る手つきは、ストッキングの感触に重点を置いた特殊なものだった。
彼の様な少年さえも虜にする特殊な性癖。
母親とも歳の変わらない私にさえ、矛先は向けられた。