光の風 〈帰還篇〉-12
聖の姿が見えなくなった瞬間、何の気配もなく地神・千羅(せんら)がカルサの横に現れた。
「皇子、ただいま戻りました。」
「ご苦労だった。結果は?」
千羅は残念ながら、と簡潔に報告を済ます。片膝つき、下げていた頭をさらに下げる。
「そうか。まぁ、そうだろうな。」
「瑛琳(えいりん)はまだ調査中です。」
地神・千羅、水神・瑛琳の二人には五大元素の最後の一人、火の力の持ち主を探してもらっていた。前回の黒の竜王・フェスラの一件から警戒して捜し出そうとしていたのだが、失敗に終わった。
カルサの身を陰ながら守り、全力でサポートするのが役目の二人。カルサの傍から離れることなんかなかったが、今回は二人ともシードゥルサから離れていた。
「なんか、傍に千羅達がいないと調子が狂うな。」
カルサは壁に寄りかかりながら呟いた。そんな嬉しい言葉を千羅が聞き逃すわけでもなく、はにかみながらカルサの横にもたれかかる。
「どうした、素直じゃないか。」
「いや、そういや初めてだなぁと思ってさ。千羅と瑛琳が傍にいないのは。」
千羅のからかいに乗るわけでもなく、カルサはしみじみ話を続けた。そんなカルサにもちろん千羅も聞く態勢になる。
「頼れる奴らが同時に戻ってきて、確かに心強い。それは十分実感はした。」
しかし、と言わんばかりに黙り込んでしまった。確かにあの魔物の気配を感じたとき、自分と同じ様に気付き対処すべく外に飛び出してくれた彼らに頼もしさを感じた。
「カルサ、貴未の力の事だが…界の扉と関係がある。」
この世にはまだ見ぬたくさんの世界が存在する。一つの世界にはそこへ繋がる扉が必ずある。その名を『界の扉』と言う。
「貴未は、界の扉と唯一リンクできる人間だ。」
千羅の言葉にカルサは思わず身体ごと向けた。世界にちらばる、無数の界の扉が一ヶ所に存在する場所。それが界の扉の間。限られた者だけが知る場所。
今回の千羅、瑛琳の任務も扉の間を利用し遂行された。しかし貴未は扉の間に行かずとも、今いるその場から自由にどこの次元にも飛ぶことができる。
そのリンクする力をもつ唯一の人間である、というのだ。
「リンクできるって…じゃあ、あいつが時生(ときお)の力を受け継ぐ…末裔?」
太古の王国、神官の一人。空間や時間を操る力をもつ人物こそが時生だった。カルサに懐かしい記憶がよぎる。しかし、時生の驚異な力を受け継いでいるにしては気になる点がある。
「じゃあ、何故あいつは自分のいた世界に帰れないんだ?」
「そこが問題なんだ。界の扉の間にもカリオの扉はある、けど開かなかった。」