光の風 〈帰還篇〉-13
万能のリンク者や、実際の扉を目の前にしても開かない扉。カルサは目を細める、なんとなくその答えが見えたのかもしれない。
「まさか、カリオというのは…?」
カルサは言葉を止めた。しかし、千羅には目と表情で伝わった。静かに頷き、口を開いた。
「一番最初にこの国に来たのは貴未だった。次に聖と紅奈、そしてリュナ。」
「界の扉を操る力か…。なるほど、これでオレはいつでもあいつの下へ行けるという訳だ。」
呆れた様に吐き捨てた。そのまま自分の足元を見つめて考え込む。
「聖と紅奈は結界士。しかも強い力の持ち主だ。風、地、水の力、確実に集まってきてるぞ、カルサ。」
ああ、そうだな。と、千羅の方を見ずに俯いたまま同意する。考えても考えても仕方のない事が言葉になって出てきた。
「力を集めるよりも…もっとてっとり早い方法があるのに…。」
その言葉に千羅は素早く反応し、カルサの両肩を掴んで壁に押し当て顔を乱暴にあげさせた。
驚いたカルサの目に映ったのは怒った表情でまっすぐ見つめる千羅だった。
「お前が納得するまでオレは何度でも言うぞ?結論を急ぐな!」
「千羅…。」
「オレ達が必ず方法を見つける。だからお前は前だけ見てろ!絶対にオレ達が守る!」
千羅はその思いを確かにカルサに届けた。一時しのぎでも、上辺だけでもいい。いつか確実に伝わる時まで何度でも言うつもりだった。
カルサは千羅の言葉には答えを出さず、ぼんやりと呟いた。
「…一度、オフカルスに行くか…。」
太古の王国・オフカルス。その場所は人知れず今尚残る王国だった。すべての世界を束ねる場所、それがオフカルス。
千羅はカルサから手を離す。カルサにとってオフカルスはトラウマ以外の何物でもない。
太古の王国の平和な日常、一人の女性・玲蘭華(りょうらんか)によって破滅に導かれ、今尚その因縁は時を越えてカルサにまとわりつく。
「皇子、一度ナルの所に行きましょう。」
千羅はカルサに提案をした。ナルとは、この国シードゥルサの国専占者ナル・ドゥイルの事を意味する。
千羅の提案の意図にカルサは気付き、賛成した。そしていつもの表情に戻る。とりあえずは今の悩みの解き口を見つけたのだ。
「忘れてた。おかえり、千羅。」
「おう、ただいま。」
色々やる事があり、時間との勝負になる事は確実だった。しかし二人は今日は休むことにした。
せめて今だけは安らかに、夜を過ごせるように。