Oh, AMEN警報-3
質問に答えてもらうだけならば、僕なんかより工藤さんの方が適任だろう。まだまだ、僕なんかが及ばないほど知識豊富なのは誰が見ても明らかなのだから。しかし、彼女は僕を指名した。それを聞いて、確実に心拍数が上がった。鼻の頭に汗もかいた。脳の中を観察できたならば、多少のホルモン異常も検出できたかもしれない。
僕は工藤さんとの会話を早々に切り上げ、楠木沙羅に電話をした。電話番号は知っていたのだが、実際に電話をするのは初めてであった。僕の手は、少し震えていた。
彼女が電話に出るまで、永遠とも思えるような時間が流れた。
僕が存在する空間だけ、時間の流れが遅くなったのではないのかという錯覚。
随分時間が経ってから (数秒だったかもしれない)、電話が通じた。
「もしもーし」
彼女の声を聞いたら、何故だか妙に落ち着いてしまった。緊張が度を越すと、人は冷静になるのかもしれない。僕は、単刀直入に話を切り出した。
「急で悪いんだけど、大事な話があるんだ……」
「え?」少しの沈黙。「お金なら貸しませんよ」冗談を言った彼女の声は、笑っていなかった。
「えっと、電話で話すのもなんだし、直接会って話したいんだ。ほら、前にも言ったかもしれないけど……、僕は電話恐怖症なんだよね。3分以上電話で話すと過呼吸になるんだ」そう言った僕の声も、笑っていなかった。「正門で待ってるから」
「……はい」という返事を聞いてから、僕は電話を切った。
僕たちは、土手の上に二人並んで立っていた。正門の目の前にある土手で真田掘と呼ばれている。視線を下げると、グラウンドでサッカー部が練習をしている。まだ昼休みは始まっていないので、この時間に授業がないのか、あるいは自主休講なのであろう。
この場所からは例の教会も見える。いつもは特に感慨が湧かないが、その日は少し神聖な気分になった。夢とは違い日曜日ではないので、周辺の人通りは少ない。
二人の間には、先ほどから沈黙が流れている。決して居心地が悪い沈黙ではないが、このまま黙っているわけにもいかなかった。誘ったのは、この僕なのだ。
「楠木さんはいつも僕に質問してくれるよね」
彼女はまるで地平線を探しているかのように、真っ直ぐ遠くの方を見て黙っていた。
「今日は、僕の方から一つ、提案があるんだ」
「英語で言ったら?」彼女は即答した。
ああ、やっぱり僕は彼女が好きだ。
「君が好きだ」
心の底から自然と言葉が出ていた。僕の今までの人生の中で、最も純粋な言葉だった。そして、最も綺麗な言葉だった。
彼女は少し目を細め、僕の方を向いて笑顔で答えた。その笑顔はぞくっとするほど美しく、そして、多分、少し泣きそうだった。
「もちろん、喜んで」
そう言い終えた直後、教会の鐘の音が鳴り響いた。
そうだ、正午にも鐘を鳴らすんだった。
否が応にも、自分の夢と重なる。
違うのは、僕の目が覚めないこと。
そして、この鐘の音が始まりを告げているということだ。