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夏休みも終わりに近づき、街も熱から開放されたように落ち着きを取り戻した。
甲子園の大会歌を聴くといつもうらさび心寂しさを感じる。まだまだ残暑は続くが、夏の終わりはいくつになっても寂しいものだ。ホテルで別れてから、結子とは一度会ったきりだった。
取材に直行すると部には伝え、結子が仕事に出るまでの時間を二人で過ごした。
富岡は結子のことは考えまいと敢えて仕事に身を投じ、担当のページを埋める作業に没頭していた。結子からメールもなく、このまま終えることは簡単なはずだった。
やがて秋を迎え冬になり、年が明ける頃には自分の病も治まっているだろう。恋愛とは、熱病なのだ。
そんな折「OLDIES」のママから携帯に電話が入った。
「結子ちゃんがけがして入院しちゃったのよ」
富岡はノートを閉じると、そのまま編集部を飛び出した。
横須賀の市民病院に駆け込むと、受付で病室を聞いた。外科病棟の大部屋に、彼女は横になっていた。
「富岡さん、どうして?」
「ママから電話もらって。とりあえず来てみたよ、頭だって?」
「ママったら……母にも知らせないでって言ったのに」
「いや、一部は俺のせいでもあるから」
頭に包帯を巻かれ、頬も赤くなっている。打撲だろうか。
昨夜店の客同士で乱闘騒ぎが起きた。
米兵同士だ。アメリカに帰還したジョンソンの友人だった男が、週刊誌に余計なことを話したのはお前だろうと結子に言いがかりをつけたのだ。
結子はジョンソンに不利なことを話したわけでもなく、彼女も被害者のようなものだとかばった兵士と喧嘩になった。互いに酒が入っており、体力は常人以上の男同士だ。やがて1対1が2人3人と増え、止めに入った結子は思い切り突き飛ばされた。スツールを倒しながら結子は倒れ、カウンターの角に思い切り頭部を殴打した。出血がひどくすぐに救急車で運ばれ、5針ほど縫うことになったのだ。脳波に異常はなく、抜糸まで安静にと言う診断だった。
「傷の手当するのに、髪の毛剃られちゃった」
「髪なんかすぐ伸びるよ。本当に何でもないんだね?」
「うん、大丈夫」
「よかったよ……」
「一般のお客さんがいなくてよかった。けがしたのが私で、本当によかった」
富岡は結子を抱き寄せようとして、ここが大部屋だったことに気づいた。
「屋上行く?私も一服したいし」
割れたグラスで切ったと言う指には絆創膏が巻かれていた。富岡は結子の肩を支えゆっくりと廊下を歩いて屋上へ出た。