理由-3
「こんなこと、どこで覚えた?」
リビングで、両手を差し出したときから、違和感を覚えていた。
ミナが、両手を縛らせようとしたからだ。
手首と手首を重ねて差し出すのは、拘束させるのを意味している。
そんなことをミナに教えた覚えはない。
ミナは、どちらかといえば奥手の方だ。
性の知識が豊かにあるとは思えない。
それは、悪戯していた頃を思い出してもわかる。
ミナは、何をするにも怖がった。
セックスという言葉さえも知らないほどに、無垢な妹だった。
その妹が、教えていない知識を持っている。
タケルの知らないところで何かがあったのではないか?
そう考えた。
浴室から以降の日々は、異常とも思えるほどにタケルを怖がった。
それはタケルを怖がっているというよりも、男そのものを怖がっているようにも思えた。
嫌悪したのだ。
自分の身体を狙う異性に対して、並々ならぬ恐怖心を持っている。
そんな印象が、ずっと頭の片隅にあった。
「何があった?」
疑問を訊ねた。
ミナは無惨なほどに唇を震わせて、タケルを見上げていた。
「打たないで……」
震える声で、それだけをいった。
「打つ?なぜ打たれると思う?」
ミナに手を挙げたことなど、一度としてない。
「だって……。」
声も出せないほどに唇を震わせていた。
愛らしい顔を哀れなほどに歪めて、つぶらな瞳から止めどもなく涙を溢れさせていた。
「ミナを……打ったり……叩いたりするんでしょう?ミナをしばって、打ったり、叩いたりしながら、ミナのアソコやお尻の穴に、おチンチンを入れるんでしょう?……」
「ああ?」
「だって、ミナ見たもん……」
「どこで?」
「チ、チカちゃんの家で……」
「チカちゃん?誰だそれ?」
「同じクラスの子……」
「はあっ!?」
タケルの身体から毒気が抜かれるように、一瞬にして張りつめていたものが消えていった。
「お前、いったい何やってんだ?」
あきれて、ミナの前に屈み込んでいた。
「だって怖かったんだもん!お兄ちゃんになにされるのかわかんなくて、怖かったんだもん!そしたら……チカちゃんが、見せてくれるって……」
「で、そのチカちゃんチに行ったわけか?」
ミナは、こくりと肯いた。
「ったく、いったい、何してくれてんだ……」
嘆くようにつぶやいた。
少なくともチカという女の子は、タケルがミナに悪戯していることを知っている可能性がある。
「ほかにも誰かに話したのか?」
ミナは、首を横に振った。
「ふーっ……」
溜息しか出てこない。
「そんなに、俺が怖かったのか?」
ミナは、涙を溜めた目でタケルを見つめながら、小さく肯いた。
「お兄ちゃんが、お前にひどいことをすると思ったのか?」
それには肯かなかった。
肯きはしなかったが、何かを言いたげではあった。
タケルは、じっ、とミナを見つめた。
目の前に、泣き腫らした顔があった。
目の周りを赤く染め、鼻水まで垂らしている。
「ったく……」
どんなに泣いても、ミナが可愛らしいことに変わりはない。
なんだか、可笑しくなった。
ミナの脇の下に手を差し込んだ。
タケルは立ち上がると、そのままミナの体を持ち上げた。
腕を伸ばし、ミナの頭が天井につくほど高く上げた。
「お兄ちゃん……」
何をされるのかと、ミナは不安らしい。
タケルは下から、可愛らしい顔を眺めていた。
「なにも友達なんかに訊かなくたって、お兄ちゃんが教えてやったろう?信用できなかったのか?」
見上げながら、訊ねた。
「そうじゃ……、ないけど……」
口ごもるようにミナが答える。
「信用してなかったんじゃないか。本当にお兄ちゃんがミナにひどいことするなんて思ったのか?」
実際、してるわけだが……。
「だって、怖かったんだもん……」
そればっかりだ。
今にも泣きそうな声だった。
「いっぱい可愛がってやろうと思ってたのにな……」
腕に持つ、妹の身体は、あまりにも軽い。
「もう、かわいがってくれないの?……」
ミナの声は、泣いていた。
タケルは答えなかった。
「ミナに……ひどいことする?……」
それだけが、ミナには不安らしい。
この妹には、タケルにひどいことをさせない不思議な魔力がある。
タケルは、安心させるように首を横に振った。
「ミナを……虐めない?……」
タケルは、ジッと下から見上げていた。
あんなに逃げ回っていたくせに、タケルのことはやっぱり好きらしい。
つぶらな瞳がタケルを見つめている。
どこか甘えるような目つきだった。
タケルは、安心させるように笑ってやった。
「虐めるよ、バカ」
ミナを持つ手を離した。
落ちてくるミナを受け止め、脇に抱えた。
そのまま乱暴にベッドに放り投げた。
「じゃあ、なにしゃべったのか教えてもらおうか?」
上から覆いかぶさり、厚い胸の中に閉じこめた。
薄い胸と肌を合わせて、まずは前菜代わりにミナの腫れぼったい唇を貪った。
タケルの胸の中で薄い胸が苦しそうに藻掻く。
すぐにしがみついてきて、すがるように薄い胸が押しつけられる。
この薄い胸の体温を感じるだけで、タケルはどうしようもないほどに悦びを感じてならない。
虐めるつもりは満々だった。
手を縛り、脚も縛った。
だが、ミナは憎めない。
腕の中に入れて、あらためてこの妹に愛しさを募らせている自分を、タケルは笑った。