想い出のアルバム-5
(5)
募る想い……。会えないことが苦しいと初めて感じた。それは何なのか、理屈では整理できなかったが、
(叔父さんが、好き……)
その想いだけが胸に膨らんでいるばかりだった。
(叔父さんだってあたしを好き……)
それは間違いない。だって、私だけのアルバムを作っているんだから。……
私の感情が揺れ始めたのはあのアルバムを見てからだ。知らない間に撮られた、
(Hな写真店…)
性の芽生えはそこから始まった。
アパートで撮った写真はどう写っているだろう。意識して露骨なポーズをとった昂奮のひととき。それを見たかった。だがその『想い出のアルバム』がなくなっていた。ベッドの中にもない。叔父さんの部屋の隅々を探してみたが見つからなかった。
(アパートに持っていったのだろう……)
大晦日にひさしぶりにやってきた叔父さんは2日間泊っていった。でも、お酒ばかりでゆっくり話をする時間はなかった。それにこれまで以上に忙しくなりそうだった。英語の教師が病気で入院することになり、その分を担当することになったという。
「新年度から正規採用になるかもしれない。もしかしたら担任を受け持つかもしれないんです」
「よかったわね、勲さん」
ちっともよくなかった。これでますます会えなくなる。
忙しいといっても、あんなに夢中で私を撮ったのに……。もうどうでもいいのかな……。
(あの時の写真が見たい……)
何度か言い出そうとしたが言えなかった。
小さな期待の灯が胸に灯ったのは希望の女子高に合格した時である。
電車通学になる。途中、叔父さんのアパートの最寄駅を通る。
(叔父さんに英語を教わりたい)
それを口実にできないだろうか。そう考えたのである。
(塾へ行くよりいいでしょう?)
「叔父さんに英語を教わったら」
去年母親も言っていたのだから問題はないはずだ。しかし自分に思惑があるから言い出せないでいた。
ところが入学式が迫った3月末の休日、ひょっこりやってきた叔父さんがこの話を持ち出してきたのである。
「高校の制服はもう用意してあるでしょう?入学式の頃はこっちも忙しいから写真を撮ろうと思って」
思い立って来たのだという。もちろん家族の前で撮影するのだが、それでも私は嬉しくて真新しい制服に着替えて久しぶりにカメラの前に立った。
「もしよかったら、英語の勉強みてあげようと思ってるんだけど、どうかな」
一通り撮り終わってから、叔父さんは私にではなく両親に言った。
一年生の担任になることが決まって、自分の勉強にもなるからということだった。
「うん、教えてほしい!」
私は大きな声で割って入った。
「真弓ったら」
「でも初めての担任だろう。何かと大変じゃないか?」
「だから少し様子をみて、ペースがわかってからということで。真弓ちゃんも学校に慣れてからのほうがいいだろうから」
すぐでもいいと思ったが、私は素直に頷いた。
「じゃあ、状況をみて」
「真弓、ちゃんとお願いしなさい」
「叔父さん、お願いします」
「叔父さんじゃないわ。先生よ」
「はい、先生」
「ぼくも1年生だから」
望み通りになったのはよかったが、学校帰りにアパートに立ち寄るという私の考えは時間的に難しく、叔父さんが土曜日に来ることになった。そして以前のように夕食を一緒にして泊っていく。
「毎週は無理かもしれないから、月2回くらいになるかな。それは臨機応変に」
それはいいのだが、家でとなるとあのときめきの撮影はできないかもしれない。階下に親がいるとなれば、少なくともアパートのような大胆な行動は気分的にためらわれる。でも
(撮ってほしい……)
カメラを向けられたら前よりもいやらしいことをしてしまいそうな気もしていた。
叔父さんが帰った夜、私は足音を忍ばせて叔父さんの部屋に入った。2階には3つの部屋があり、叔父さんの部屋は奥にある。
灯りを点けずにベッドに座った。街路灯の明かりが届くので暗闇ではない。ひんやりした空気が澱み、そこには叔父さんのにおいが染み込んでいた。体臭、脂、オーデコロンなどが入り混じった複雑なもので、昼間には気づかないにおいだと思った。
布団にもぐり込むとそのにおいはさらに強く感じた。
(叔父さ[#禁止文字#]F