カピバラと俺-3
◇ ◇ ◇
ピンポンピンポンピンポン。
……なんだ、うるせーな。
インターホンが連打されたような気がして、そっと目を開ける。
すっかり夜も更けた部屋の中を、カーテンを閉め忘れた窓から差し込む月明かりが、ぼんやりと優しく照らしていた。
あれ、あのまま寝てしまったのか?
身体がしっかりと掛け布団にくるまっていたことに気付いた俺は、思わず瞬きをパチパチと繰り返した。
薄暗がりな部屋にぼんやり光る夜光式の掛け時計に目をやると、すでに8時をまわっていた所。
すっかり眠ってしまった身体は、不本意な目覚めを拒否するかのように重かった。
働かない頭は、睡眠欲に実に忠実で、開いたはずの瞼がまたくっつこうとしていた。
このまま飯食うのもダルいし、もう少し寝直そう。
そう思って、再び掛け布団に身を隠せば、ホワンと温かい空気が心地よかった。
うーむ、幸せ。
一人暮らしのいい所は、好きなだけゴロゴロしていられることだ。
もちろん、大学生の頃に比べたら、ある程度の規則正しい生活は送らなくてはいけないけれど、それでも休日はこんな風に好き放題に寝ていられるってのは、何より幸せなことだ。
確か、カップ麺ならまだ少し残っている。
次に目覚めた時に生じるであろう食料問題が解決した所で、俺はいい気持ちになって、目を閉じた……ら。
ドンドンドン、と今度はドアを叩く音。
そこで俺は、我に返ったように、布団を跳ね除けて飛び起きた。
眠りにつくまでは、昼間の出来事にイライラしっぱなしだったのに、一度眠れば何もかも忘れるなんて、俺はなんてアホなんだ。
さっきのインターホンの音は夢なんかじゃない。
慌てて玄関に向かい、相手を誰か確かめることすらしないで無用心にドアを開ける。
いや、相手が誰なのか知っていたから、確かめる必要なんてなかったのだ。
迷惑を省みないインターホンの連打、さらには隣近所に響き渡るくらいうるさいドアを叩く音。
部屋は真っ暗だし、留守にしてると思わないのか、あいつは。
テレビなんかでよく見る、借金の取り立てさながらに、しつこくドアを叩くその音に、逸る気持ちを抑えながら、俺は鍵をガシャンと開けた。