カピバラと俺-2
当然、この後鈴木とは呑気にカラオケなんて気分にはなれずに、解散するはめに。
土下座をしたまま動かない和史くんと、呆然と突っ立ったままのカーディガン男を尻目に、鈴木には、また今度埋め合わせをすると約束しつつ謝った。
だけど。
せっかく二人で遊ぼうとしてたのに、俺のせいで流れてしまったにもかかわらず、鈴木はなぜかニコニコしていたのだ。
子犬のような愛らしい目を、弓みたいに細めて笑うその表情は、雨上がりに雲の切れ間から覗くような、晴れやかなもので。
そして、奴は俺の胸の辺りに軽くパンチをすると、ただ一言。
「……お前、カッコよかったぞ」
それだけ言うと、
「ああ、なんかすげえ彼女に会いたくなった〜」
と、大きく伸びをしながら一人ごちていた。
ドタキャンって形になったのに、なんで鈴木が嬉しそうなのか、まったく理解出来ない。
怯える店員さん達、青ざめた顔で突っ立ってる和史くんのツレ、そして、土下座をしたまま動かない和史くん。
店内の空気は最悪なはずなのに、嬉しそうに微笑んでいる鈴木だけが、別世界の生き物に見えた。
そんな出来事がさっきから頭を離れてくれず、延々と周り続けている。
そもそも俺のどこがカッコよかったっていうんだ。
あの鬼畜を完膚なきまでに叩きのめすわけでもない、本命の彼女にバラす真似すらできない、挙句の果てには茜のことを考えてはボロボロ泣いて。
はっきり言って超ダサダサじゃないか。
喧嘩なんてしたことがない俺は、昼間のことを思い出すと、憤懣遣る方無い気持ちでいっぱいで。
今更ながら、アイツをもっと殴っておけばよかった、もっと罵ればよかった、そういう後悔ばかりが込み上げてくる。
そんな不完全燃焼な思いだけが、今も胸の中をブスブスと燻ぶる俺は、
「あー、クソ!!」
と、でかい独り言でやり場のない気持ちをぶつけるしかできなかった。