高校時代-1
2人は、次に水曜日の夜に会う約束をした。
火曜日。
タクミは10時までバイトだ。
ちづるは早めに夕飯を済ませ、お風呂に入った。
9:00
ソファーの上でミルクティーを飲んでテレビを見る。
「、 、 、 、、 、 。」
飲み終ると寝室へ向かう。
寝室のタンスの一番上の段をあける。
ハンカチが並んでいる。
一番奥から、黄色の花柄の入った、小さなタオルを取り出す。
「実は、 、
まだ持ってたりするんだよね 、 、」
タクミ君に言ったら、また引くよね 。
、 、 これは、黙っとこ 。
タオルを鼻に持っていき、すうっと匂いを嗅ぐ。
「、 、って、もう匂う訳 ないか。」
先生の匂い、 、 。
あれは何の香りだったんだろう。
香水 ? より優しくて、 、
シャンプー 、 、?
でも、少し甘い香りも混じってて、 、 、 。
高校時代を、思い出す。
病院には、1年近く通った。
高校に入学して、すぐに偏頭痛が出てしまった。
入学して友達は少しづつ出来たが、女子特有の派閥作りにちづるの心はいつも不安定だった。
気がつかないうちに、心が、いつも萎縮していた。
そんな時に、あの女医と出会った。
その女医は、ちづるのプライベートな話も聞いては、共感してくれた。
もちろんそれは、カウンセリングも兼ねた治療だと分かっていたが、それでも嬉しかった。
『好きな男の子とかはー? いる?』
『16才って、本当、色々あるよねー。
大人のが気持ち的には楽チンだよぉ。
私も昔さぁ、、、』
先生の話し方が、好きだった。
頭が良くて人に優しくて、かっこいい。
でも、少しぬけてる所もあった。
ある日、待ち合い室にいると、大きな声で看護婦にこう言っていた。
『あーーー、 財布、忘れた!
お昼代かして!
ごめーん!!』
『〜 〜 』
『〜 あはは、無理っ!
ご飯たべなきゃ、午後の診察できなーいっ!』
待ち合い室に響く先生の声。
治療を終えて、支払いを待ってる患者達は気まずそうに下をむいて、笑うのを堪えていた。
ちづるも同じように堪えた。
ある診察の日。
治療中に、先生は看護婦に呼ばれた。
「ちょっと待ってね。」
と、言われてちづるは1人で治療室で待っていた。
ふと、診察用のベッドを見ると、先生のタオルが置いてある。
、 、 今日は黄色だ 、 、
ちづるは立ち上がり先生が、まだこっちに来そうにないのを確認して、タオルを持つ。
「、 、 、 、、 、 。」
先生の タオル 、 、
すると、バタバタと足音が聞こえてきた。
急ぎ足で先生が戻ってくる。
「、、っ、! 、」
ちづるは慌ててそのタオルをポケットに入れて、イスに座り直す。
「お待たせー! ごめんね ?」
「ぁ、、いえ、、」
「 ? どうしたの?」
「、、なんでも ないです。」
「 そーぉ?
、あ、でね、さっきの続き。
常盤さんは、多分、真面目すぎちゃんうんだよ。
あ、それはもちろん、良い事だよ?
、 、 でも、常に皆の事を考えて動いて、結果的に気持ちが萎縮してきちゃったら、、。
それは、 、
やり方が違った、って事だと思う。」
「、 、 、 はい、 。」
先生はふふっと笑う。
「『はい。』って、言っても常盤さんはまた明日には、真面目に皆の事を一番に、考えちゃうんだろーなー ?
あ、今、その映像が浮かんだー。」
「、 、 、 。」
先生はそういうと、ちづるのほっぺを撫でる。
「、、、いつも言ってるでしょー?
無理しないで ね ? 」
「、っ、 、 はい、 。」
「きっとすぐに人との、距離感って言うのかな。
掴めてくるよ。」
撫でられる度にいつも、先生に甘えたい衝動にかられる。
甘えたい気持ちと同時に、いつも良い香りがしてきて、一瞬だけ目眩がする。