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やっぱりそこにある愛
【コメディ 恋愛小説】

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カピバラの彼氏-6

それでも一縷の望みは捨てきれない。


カズフミだってありふれた名前だし、アカネだってありがちな名前だ。


勝手に荒くなった息をなんとか落ち着けようと、椅子の背もたれを掴んだ途端、そこに掛けていた俺のブルゾンがバサッと床に落ちた。


その音に、一瞬だけ“カズフミ”と呼ばれたパーカー男がこちらを向いて――。


心臓が止まるかと思った。


ブルゾンを拾う振りをして、とっさにしゃがみ込んだ足が、ガクガク震える。


店内はしっかり暖房がきいてるはずなのに、全身にぶわあっと鳥肌がたった。


この時ばかりは、自分の記憶力の良さを心底呪った。


いや、記憶力がいいってことはないか。


興味がないはずだったのに、茜と彼氏の待ち受け画面は、あの日から頭から離れてくれなくて。


茜が得意気にご披露してくれたあの待受画像と同じ顔を、俺は見てしまったのだ。


早鐘を打つ心臓。全身を覆う鳥肌。ぐわんと揺れる視界。


思わず床に手をついてしまう俺をよそに、テーブル席の方は相変わらず“セフレ”の話で盛り上がっているようだ。


だけどその内容は、とても人として聞いてられるものじゃなかった。


「しかし、和史も鬼だよね。茜さんって、お前が初めての相手だったんだろ?」


「そんなの知るか。可愛い子が処女だったらそれは神格化されるけど、ブスが処女って当たり前じゃん。男に相手にされないんだから。ヤッてやったのだって、ボランティアだよ、ボランティア」


「ひっでえ、和史」


――ボランティア。


二人は話に盛り上がりすぎて、こちらの存在なんてまるで気づいていない。


奴らの笑い声が遠く聞こえる反面、浮かんで来るのは茜の笑顔だ。


焼肉屋で、和史くんのことをのろける彼女は呆れるくらい嬉しそうで、キラキラ目を輝かせて。


幸せオーラに包まれていたアイツは、悔しいけれどホントに可愛かった。


それだけに、コイツの正体をこんな形で知ってしまい、茜の笑顔を思い出すと、目の奥がチリリと痛んでくる。


……ちくしょう、茜を弄びやがって!!


気づけば俺は、和史くんの胸ぐらを掴み上げていた。




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