カピバラの彼氏-10
笑いが込み上げてくる。
コイツは単に、俺をこれ以上怒らせるのが怖かったから、「茜を好きになってしまった」なんてでまかせを言っていたに過ぎなくて。
結局は、茜じゃなくて本命の彼女を選ぶってことだってわかりきっていた。
でなきゃ茜をセフレ呼ばわりするわけないし、そもそも茜をホントに好きだったら、そんなヒドい抱き方なんてするわけねえ。
バックばっかで、あとは顔に枕を押し付けて……だっけか?
よくもまあ、そんなヒドいことできるよな。
なのに、茜はあんなに嬉しそうにのろけていて。
焼肉屋で幸せいっぱいにコイツの話をしていた茜を思うと乾いた笑いしか出てこなかった。
普通、そんなヒドい抱き方されてたらいくらなんでも気づくだろ。
初めて出来た彼氏に浮かれすぎて、頭がお花畑になってしまったのかよ。
前髪をクシャリと握って俯き加減にクククと笑っているうちに、目の奥がジワリと痛んで、涙が出てきた。
「バカだなあ、茜は……。こんなクズに騙されて……」
「元気……」
鈴木の心配そうな声も、ろくに聞こえてこない。
なんでだよ、なんでアイツがこんな目に合わなきゃいけねえんだよ。
手のひらが、涙で濡れてくる。声だって弱々しく震えてくる。
「ホント、バカだよ、茜は……」
俺だって、バカだ。
店に迷惑をかけるような真似をして、挙句の果てに勝手に泣き出して。
静まり返った店内に、俺の鼻水をすする音だけが、やけに響いていた。