追憶の無垢-3
(いったい、何度わたしは…… )
使い込まれた陰茎にそっと指先で触れてみると、ヒクリッと僅かに反応を得る。
眠りに就く本人の意思とは関係なく、まるで別の意思が介在するが如く恵利子の指先に応えてくる。
(ほんとうに、エイリンアンみたい)
赤黒く腫れ上がったグロテスクなそれは、いつか読んだS.F.小説に登場した異星人に想われた。
恵利子は注意深く陰茎の形状を確認しながら細い指を絡める。
やがて大きな瞳を閉じ躊躇いながらも、グロテスクなそれにそっと頬を寄せる。
さほど時を置かずして、無意識に開かれた口元に陰茎は包み込まれていく。
ゆっくりとだが舌先が亀頭に触れていく。
「んぅ ふぅぅ」
徐々に膨張しはじめる陰茎をしっかりと咥え込むようになっていた。
口中が唾液で満たされていくと、陰茎にこびり付いた精液がそこに溶けていく。
自然と口内を通し、溶けだした精液の臭いを鼻孔奥で感じ取る。
鼻を衝く“おとこ”の臭い、嫌悪し吐き気さえ感じ続けてきた。
しかしそれもいつの頃からか、嫌ではなくなっていた。
いやっ、むしろ今では……
「恵利子、恵利子、えりこぉ」
繋がり合いながら、切なげに自分の名を口にする男。
同時に痛みに涙しながら、許しを乞う恵利子にとってその光景は奇異でさえあった。
刹那、下腹部を蹂躙していた“おとこ”が数回脈動すると、途端にひどく脆弱な存在へと変り果てるのである。
「ぅぅん、ぅぅん、ぁぅん、うん、うん」
恵利子はまるで何かに憑かれたように、深く陰茎を咥え黒髪を激しく揺らす。
薄ピンク色をした口元を締め、舌を絡めながら扱くよう吸い付く。
「んぐぅ んぐぅ」
口中に満ちた唾液を嚥下すると、精液の臭いが広がっていく。
精液の臭いは嫌いではない。
いやっ、むしろ好きであった。
野太い陰茎に緊張が奔る時、男は少年のように恵利子への想いを告げる。
それは姿形こそ違え、いつか観た少年の言葉によく似た響きを持っていた。
しかし、もうその千章流行【おとこ】は居ない!?
代わりに今、目前に在るのは、新たな脅迫者の姿。
恵利子を淫獄へと曳き摺り込む切っ掛けをつくった猥褻魔。
(何故、どうしてこんな事に…… 何故、私ばかりがこんなめに遭うの? 叔父もあの男【千章】も 、それに目の前の男まで! どうして私ばかり苛めるの?)
怒りを通り越した絶望の暗い闇が、恵利子の心の中に拡がっていく。
それでも……
『さあ、どうする磯崎。それともヤリまんの磯崎とでも呼ぼうか? こちらの要求は先日渡した通り』
精児は掛けていたベンチより立ち上がると恵利子ににじり寄る。
(やっぱり、あの時の男)
恵利子は現れた脅迫者が、思った通り猥褻魔であったことを認識する。
『従えないと言うなら、ベットの上でお前がケツを振る…… 』
感情の起伏ある言葉には、確固たる意志が込められていた。
「!」
瞬間的に周囲を見回す恵利子。
『まあ、詳しい話はこれからしようや。こんな話、誰かに聞かれたくないだろ?』
精児は公園脇に止められた車を指し示す。