投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

やっぱりそこにある愛
【コメディ 恋愛小説】

やっぱりそこにある愛の最初へ やっぱりそこにある愛 9 やっぱりそこにある愛 11 やっぱりそこにある愛の最後へ

カピバラの恋-4





   ◇   ◇   ◇



「美味し〜い! このお肉、超柔らかい!!」


目の前で次々と肉を頬張る茜は、左手で頬を押さえながら、ギュッと目を閉じつつその味を堪能していた。


久しぶりに会う茜は何も変わっていなかった。


仕事の時用に束ねられたお団子頭。短い首。ふっくらした頬。


そんな姿で、店に現れた茜なのに、なぜか俺には別の人間に見えた。


「ほら、元気も食べなよ。このカルビ、すっごい美味しい」


さっと炙るだけで食べられる、この店イチオシの山形牛カルビを、強引に俺のタレの入った皿に寄越してきたので、仕方なしに口に運ぶ。


もぐもぐ咀嚼をすれば、肉汁が歯の間から滲み出るように、旨味が口いっぱいに広がり、さらにはニンニクのきいたタレがピリリと舌を刺激する。


初めて入ったこの店は、大当たりだ。


……それなのに、なぜか味気ない。


すごく美味いのは頭じゃわかっているんだ。なのにあまり箸が進まなかった。


「あれ、元気。さっきから全然食べてないじゃん」


「ん、ああ……。何だろう、ここ最近カロリーメイトばっかりだったから、急にイイもん食べると胃がびっくりしそうでさ」


あれだけ美味いものを食べると息巻いていたのに、いざ、美味そうな肉を目の前にしても、ちっとも食べる気が起きない。


なぜだ、なぜだ。


その理由がわからないまま、ひたすら肉を焼く、茜のクリームパンみたいな手をボンヤリ眺めていた。


「あー、ホントならあたしこそ、こういうごちそうを控えなきゃいけないんだけど、我ながら誘惑に弱くて嫌になっちゃう。ほら、アンタも食べなさいよ、あたしばかりに食べさせてないで」


言う茜は、まるでお母さんのように、取り皿に焼けた肉を取り分けてきた。


タン塩が多めなのは、俺がそれを好きだって知っているからだろうか。


そんな小さな気遣いすら、なんだか癪に障る。


「なんだよ、だったら断ればよかっただろ?」


思わず出た口調がぞんざいなものになってしまう。


なんで俺は、こんなに苛立っているんだろう。


会社から出た時は、あんなに解放感でいっぱいだったのに。


茜に八つ当たりしている自分が嫌になって、ごまかすように取皿の中のタン塩に手を伸ばす。


レモン汁の入ったタレ皿に入れようやく口に運ぼうとした所で、茜が、


「だってさあ、今日は元気にどうしても聞いて欲しかったんだもん、和史(かずふみ)のこと」


と、嬉しそうな声を出すもんだから、口を開けてまさに肉を食べようとした状態のまま、俺は固まってしまった。



やっぱりそこにある愛の最初へ やっぱりそこにある愛 9 やっぱりそこにある愛 11 やっぱりそこにある愛の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前