柔らかい朝-6
「まあ、まあ、言ってみれば、そういうことです、あはは!」
修二は嬉しそうだ。
「バスケットは昔からやっているの?」
「そうなんですよ!高校では県大会に出たこともあります!」
弘美は離れたところから、談笑する千帆と修二を見ていた。
(悪くないかもしれない、この大学)
修二はウザく感じることもあるけど、楽しいヤツであることはたしかだ。
こいつと居れば、なにか楽しいことがあるかもしれない。
そして千帆さん…。
憧れであり頼れる先輩と出会えた。
入学してからの最大の敵だった便秘も、千帆さんがいればもう心配ない。
弘美は空を見上げた。
梅雨入り前の、気まぐれな初夏の陽気は今日も続いている。
(こんなに気持ち良い天気だったっけ?)
下腹が軽くなると普段の景色でさえ明るく見えた。
「ねえ、修二。昨日言っていたバスケの練習試合?それって来週のいつだっけ?」
修二の目が輝いた。
「あ!ヒロミン来てくれる気になったん?うれしいわ〜。そうやで、もし、この大学に来年おらんことになっても、いろいろとこの大学を知り尽くしてからでも損はないで」
弘美はそれに笑顔で答えた。
「来年?…いるかもよ、この大学に」
「え!ほんま!?」
「そうよ、ほんま!」
弘美は大きな声でそう言った。
弘美の顔が昨日と違って輝いているように見える。
修二は安心した顔になった。
「それは、ええことや…」
弘美は遠くに目を向けた。
山並みを縫っている高圧電線がわずかに見える。
山の深い緑は、良く見るとこれからの夏を前に生き生きした若い緑が混じっていた。
それは夏の青空へ向かおうとする希望の色だった。
(へえ、きれいなんだ…)
弘美は田舎の景色を見て初めてそう思った。
入学前に父親から言われた言葉を思い出した。
不本意な大学に行きたくないとゴネる弘美に父親はこう言ったのだった。
『行けばきっと気に入るから…』
弘美は山々の方に向かって大きく叫んだ。
「わたし、気に入るかも!」
【終】