母からの電話-3
電話の向こうで母は笑った。
不思議なことだったが、小学生の時、たしかにそんなことがあった。
弘美もつられて笑った。
泣きたいのと可笑しいのとで、自分が泣いているのか笑っているのか分からなかった。
母が優しく尋ねた。
「弘美は身体の方は大丈夫なの?」
弘美は反射的に下腹に手を当てた。
苦しいほど張っていた。
大丈夫なわけがなかった。
しかし、またしても弘美の口から出てきた言葉は嘘だった。
「う、うん。大丈夫よ」
「風邪なんかひいてないの?」
「ひいてないよ」
「そう、それはよかったわ。それじゃ、また近所でなにかあったら電話するね」
「うん。わかった」
「それじゃ、またね」
電話は切れた。
窓の外に目をやると、陽はとっぷりと暮れ、光のない田舎の夜が始まっていた。
弘美は現実に引き戻された。
ベッドに横になると、話し終わったばかりなのにもう母が恋しくなった。
「お母さん…」
枕に顔をうずめてつぶやいた。