『graduation番外編〜彼女が嫌いな彼女〜』-9
「あんた最近ずっと都築先輩にまとわりついてるけど、本気で都築先輩が好きなの?」
香子は思いつめたように言った。
もう雪見先輩、都築先輩の卒業も間近な冬の日だった。
「なんであたしがぁそんなこと、答えなきゃならないんですかぁ〜?」
そっぽを向くとズイと顔を両手で挟まれた。
「本気じゃないなら都築先輩に近づくのやめて。私、ホントに都築先輩が好きなの。」
馬鹿みたい。
あの人はあんたなんか絶対に相手にしない。
雪見先輩でさえ受け入れない人なんだよ?
「放して。」
香子の手を振り払った。
だいたい好きだから何をしても許されると思っている時点でアウト。
死ね、自己中女。
「本気で好きだよ〜。あなたよりあたしは都築先輩の近いとこにいるしね。」
パシンと音がした。
気が付いたら殴られていた。ほっぺたを。結構本気で。
パシン。
反射的に同じことをやり返していた。
その瞬間、
「あなた達、なにやってんのよ!」
4年生の里美先輩と浅野会長が慌てたようにやってきた。
「部室から見えてたのよ。普通に話しているのかと思ったら...」
里美先輩が困ったように言うので突然泣いてやった。
「香子が...香子...はじめに殴ってきたんですぅ〜」
それだけ言って里美先輩に抱きつき泣いた。
これでもう里美先輩は私の敵にはなれない。
「分かったから落ち着いて。」
優しい声で里美先輩が言った。
「とりあえず話聞かせて。」
あたし達はそのまま部室に連れて行かれ、あたしはありのままを話した。
香子は何も言わない。
いや言えないのだ。あたしは本当のことしか言っていないのだから。
「人を好きになるのは自由だけど、暴力沙汰はよくないわ。」
里美先輩はありきたりなことしか言わなかった。まぁうしろでオロオロしているだけの会長よか何倍もマシだけど。
あたしはこれが前みたいに雪見先輩だったらどんなフォローをしたんだろうって考えていた。