『graduation番外編〜彼女が嫌いな彼女〜』-7
「足はえ〜」
佐伯先輩が単純に感嘆の声を上げた。
けれども注目点はそんなところじゃない。
雪見先輩の嬉しさと、はにかみとを含んだ複雑そうな顔。
都築先輩の罰の悪そうな顔。まるで助けたことを後悔しているような。
「ありが......」
雪見先輩がお礼を言い終わる前に都築先輩はさっさと立ち、階段を上り始めた。
振り返って都築先輩を見送る雪見先輩――――。
その横顔は泣きそうで、それを我慢していて、醜く歪んでいた。
これだ。
私が雪見先輩に歪んだ顔をさせられるとしたら、それは都築先輩ガラミでしかありえない。
それから私は都築先輩にまとわりついた。
分かってしまったから。
雪見先輩は都築先輩が好きで好きで仕方ないのだ。隠しきれないほどに。
そして都築先輩はそれを知っていて、答えられないから雪見先輩を無視しているのだ。
けれどもホントは都築先輩だって雪見先輩をきっと大切に思っている。
少なくとも、階段から落ちる雪見先輩を、近くにいた佐伯先輩よりも先に助けてしまう位には......。
そしてそれを分かっているから、雪見先輩は都築先輩を思い切れないのだ。
あたしはそこに付けこんで、雪見先輩の醜い顔を見てやろうと思った。
都築先輩はあたしにも優しかった。
そしてあたしのことをすごく心配してくれた。
それはあたしが打ち明け話を先輩にしたから。
姉が失踪してしまったという話。
ありがちな話だった。会社の上司と不倫して駆け落ちしたのだ。
「両親は昔から出来のいい姉を特別可愛がっていたんですぅ。あたしのことは出来の悪い子だって放っておいて。」
「それなのに、姉がそんなことになったら今度は私に言うんです。『あなただけはおねぇちゃんのようになっちゃだめよ』って。だからあたしできるだけ姉のようにならないように、髪も染めて服も真面目じゃなくして喋り方も変えたんですぅ〜」
涙目でこの話をすると、男が同情の目で優しく包んでくれることをあたしは熟知していた。
都築先輩も例外ではない。
都築先輩はことあるごとにあたしに声を掛けてくれるようになった。
そしてそれを、あたしは雪見先輩に報告する。