〈霧散した未来〉-1
時は少し戻り……。
アパートの自室の窓から天パ男は眺めていた。
まだ朝靄の残る中、当然であるかのように迎えに来るミニバンに、いそいそと駆け込む恭子の姿を捉えると、その瞳には涙がうっすらと浮かんでいた。
『行っちゃう……恭子が…あんなにウキウキして……』
今日こそは抱けるはずだった……性欲と恋愛感情の混濁している“変質者”は、自分の元に駆け寄ってくる素振りさえ見せない恭子に、軽い失望と癒せない熱望を同時に抱いていた……。
『………』
天パ男は電話を掛けた。
その相手とは恭子との接触を図ってくれる男……つまりは脅迫者にである。
{おはよう。随分と早い時間だけど……なんかあったのかな?}
相手の声には少しだけ迷惑そうな空気が混じっていた。
『……あのさ、恭子のDVDを……僕にも売ってくれない?』
目を閉ざし、記憶の中の恭子で果てるだけの毎日に、天パ男はもう我慢出来なくなってしまっていた。
最初の商談の時に持ってきたDVD……恭子の悶え狂う様を記録した映像があれば、再び逢えるであろうその日まで、どうにか耐えられそうな気がする……少し冷たい態度をとられてムッとしてはいたが、それを堪えて天パ男はお願いをした……。
{なあんだ、そんな事かあ。もちろんOKだよ}
通話相手の声に変化が見えた。
掌を返したように明るく話し、まるで旧知の友のように馴れ馴れしい態度をとってきた。
{でもさあ、けっこう値は張るよ?なんたって本物のレイプ映像も混じってるんだからさあ……この意味は解るよねえ?}
非合法な映像なのだから、その扱いは慎重でなければならないのは言うまでもなく、それの対価が法外になるのもある程度は理解しているつもりだ。
{そうだなあ……本当は五十万くらいするけど、君だけ特別に三十万にしてあげるよ}
『……!!』
中々な金額に、天パ男は口を噤んだ。
いくら恭子のレイプ映像が紛れこんでいたとしても、その金額は天パ男の予想より遥かに高かった。
いや、高過ぎた。