『rule【A面】』-1
「トウコちゃん。人に後ろ指さされるようなことだけはしてはいけませんよ。」
1年前に亡くなった祖母の口癖で目を覚ました。
久しぶりに見る夢の中の祖母は、どこか哀しそうな目をしていた。
哀しませているのは、きっと、わたしだ。
人に後ろ指さされるようなことをしている、わたし。
両親共働きで祖母に育てられたわたしにとって幼い頃、祖母の言葉は絶対だった。
隣で未だ眠る時田の額に汗が滲んでいる。
はりついた前髪をそっとどかしてやった。
なんでこの男は眠っている時までも眉間にシワを寄せているのだろうか。もっと安らかに眠ればいいのに...眠らせてあげられればいいのに...
もっとも、それはわたしの役目ではない。
ベッドから降りると、手早く服を着込み、メークをする。
その間、きっと10分もかかっていない。
これでもし時田の彼女がここに乗り込んできてもとりあえず言い訳できる、なんて考えているさもしい自分がいる。
「そんなに急いで支度しなくてもいいのに。」
突然後ろから抱きしめられた。
「大丈夫ですよ。俺、あいつに鍵渡してないから、突然踏み込まれるなんてことはありません。」
いつの間に起きてきたのか時田の香水の匂いが微かに鼻をくすぐった。
「なんでもお見通しってわけですか。」
「トウコさんのことを、いつも見てますからね。」
口の巧い男。
「じゃあ今は何を考えているでしょう。」
からかいたくなって言ってみると、困ったように眉を寄せた。そんな表情も、嫌いではない。
「はい時間切れ。実は『鍵』、わたしは欲しいな、って思ってました。」
反応が試してみたくて、心にも思ってないことを言ってみた。
しかしそんな嘘に時田はくくくくと笑った。
「面白い人ですね、やっぱりあなたは。」
わたしも真似てくくくくと笑ってやった。
「『ゲーム』は面白い方が燃えるでしょ。」
まるで場慣れした女のような口をきいてみる。似合っていないことは百も承知だが。
そうこれは『ゲーム』。
サイコロは時田が振った。
最初はお茶だった。