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『rule【A面】』
【青春 恋愛小説】

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『rule【A面】』-2

「トウコさん賭けましょうよ。今日の先生の髪、ハネてるか、ハネてないか。負けた方がコーヒー1杯おごるんです。」

ゼミでたまたま隣の席に座った時、耳元で囁いて来た。

私はコーヒーを飲めないのにもかかわらず、その賭けに乗った。

彼氏持ちのわたしをそんな風にでもお茶に誘ってくれる男などめったになく、単純に嬉しかったから。

わたしはちょうど、長年付き合っていた彼氏となかなか会えず、イライラしていた。

しかし、彼氏は手放したくなかった。

時田はちょうど、長年連れ添った彼女だけ、というのでは男として情けないのではないかと悩んでいた。

しかし、彼女を手放す気はなかった。

わたしと時田との利害は一致した。

それだけ。

結局教授の髪はハネていて、わたしがスタバで本日のコーヒーをおごった。

時田は女の子におごらせっぱなしにするわけにはいかないとか訳の分からないことを言って、一週間後に夕飯をおごってくれた。

あとは、なし崩し的。

お酒を飲んで、酔っ払って、弱音を吐いて、慰めあって、唇を重ねて、気付いたら寝ていた。

それだけ。

それだけでも、初めて寝てしまった日の次の朝は「しまった」と思った。

わたしは倫理観が決してない人間ではないのだ。

小学生の時だって、まんびきもピンポンダッシュもしなかった、どちらかと言えば真面目な人間なのだ。

罪悪感で目の前が真っ暗になった。

「この関係は『ゲーム』ですよ、トウコさん。」

呆然としているわたしを後ろから抱きしめながら、時田は優しく言った。

「『どちらかが本気で他の誰かを大切にしたくなった時』、もしくは『どちらかが本気で相手を束縛したくなった時』、終るゲームです。」

生産性のないゲーム。

ただ終えるためだけに、始めたゲーム。

「いいわ。乗るわ。」

契約の申込を承諾したのはわたし。

ただ遊ばれているだけでも、本当は時田の掌で踊らされているだけだとしても、それを選んだのはわたし。

『清く正しく美しく』とまではいかなくても、いつだって最低限のルールは守って来た自分が、なぜそのゲームに乗ったのか、自分でもよく分からなかった。


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