『rule【A面】』-3
「はい、スペアキー」
ぽとりと自分の掌にのせられたそれに、目を見開く。
「なんで。」
「自分が欲しがったんじゃないですか。」
可笑しそうに言ってから
「プレゼントです。もうすぐ半年ですからね。」
そうか...わたし達がこんな関係になってから、もう半年になるのか。
だからと言って鍵なんて...
自分で言っといてなんだが、こんなもの使いようがない。
しかし、いらないとも言えず、わたしはそれを握り締めた。
顔がぼっと赤くなった気がして慌てる。
なぜだろう。少し、嬉しいかもしれない。
「帰る。今日2限出席とる授業だし。コーヒーは自分で淹れて。」
いつもは淹れてあげるコーヒーも淹れられないほど、動揺している自分がいる。
「そうですか。気を付けて。」
時田は絶対にわたしを引き止めない。
「じゃあ。」
わたしは慌ててその部屋を飛び出した。
「おばぁちゃん...わたし...」
呟きの続きは、やたらと晴れている空に飲み込まれた。
家に帰ると、
「品行方正なトウコさんが各週で朝帰り。」
同居人の小百合がぽつんと嫌味を言った。
「別に品行方正ってわけでもないよ。」
嘯いてみるが、結構ドキンとする。
小百合は気付いているのだ。わたしの泊まって来た先が、「彼氏」のところではないことに。
それを指摘しないのは、彼女が同居する上での最低限のマナーを心得ているからだろう。
『踏み込み過ぎない。』
これがわたしと彼女のルール。
「2限出るでしょ。」
小百合の問にこくんと頷いた。わたしと小百合は殆ど同じ科目を履修している。
大学の入学前の説明会で隣の席に座ってから何故か波長が合い、なんとなく一緒に部屋を探して一緒に住んでしまった。
シャワーを浴びてから、二人して朝ご飯を食パン一枚と紅茶で済まし(小百合もコーヒーが飲めないのだ)、家を出た。
大学はそこから3つ目の駅。繁華街のすぐ近くにある。
大学の名を冠する通りを2人で歩いていると、向こうから見慣れた...今朝見たばかりの影がさした。