芸者小夏-9
9.
小夏とのデートは、月に一度くらいの割合で続いた。
お互いに忙しいので、それ以上は無理でだった。
小夏との房事はすっかり板についてきて、啓介は余裕を持ってリードが出来るようになった。
夢のような日々を送るうち、年を越し、桜の便りが聞かれるようになった。
「今日は、コンドームなしでお願い」
ベッドに入ると、小夏が真面目な顔をして言う。
「えっ・・いいの?」
「うん、啓介さんは特別な人だから、無しでしたいの」
(客には絶対に生ではやらせないと言っていた小夏。僕は金を払っていないから、客じゃないよな)
なんとなく成り行きで付き合って、招待客みたいな身分だった。他人から、一段、恋人に格上げされたのか?
その夜の小夏は、生と言うだけでは説明の付かない激しい反応を示した。
確かに生はいい。
亀頭に当たる微妙な感触が、一味も二味も深い。
啓介も触発されて、小夏を責めに責めた。
「啓介さん、好き、好き、好きよ、死ぬほど好きっ〜〜〜」
鈴口から迸る愛液が、子宮に踊り込んだ。
「う〜〜ん」
小夏が、絶句して失神した。
出張に出たため、しばらく連絡が途切れた。
旅先で、啓介は小夏にプロポーズをする決心をした。
最後の夜の小夏の振る舞いは、恐らく啓介に対するプロポーズだと思った。
生で中出しを許したのは、もう他人じゃない、と言う小夏の意志の現れだろう。
確かに芸者で、時に客に身体を売ることもある。
素人のサラリーマンが、普通は結婚相手に考える対象ではないだろう。
小夏が口に出せない気持ちを察すると、胸が痛くなる。
(僕には、小夏以外考えられない)
(芸者だって、他人と寝たっていいじゃないか。僕と付き合うようになってからは、客と寝たことは無いと言っていた、再婚だと思えばいいんだ)
東京に戻って、早速小夏に連絡を取った。
<お掛けになった番号は、現在、使われておりません。番号をお確かめになって、お掛け直しください>
うろ覚えの置屋に電話を入れた。
「小夏ちゃんねえ、芸者を辞めて国に帰ったわよ」
置屋の話では、小夏は本職の芸者ではなく、学生のアルバイトで、4月の卒業で国に帰ったと言う。
「あの子、本職はだしに三味線が上手くて、真面目によく働いて呉れたんでもっと居て欲しかったんだけど・・・」
故郷は、新潟と言うだけで、本名も、住所も分らないと言う。
「卒業までのバイトだったからねえ」と女将は言い訳をした。