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プラネタリウム
【ラブコメ 官能小説】

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N.-1

第7公演目を終えた8月上旬。
広島から新幹線に乗る。
陽向はウトウトしながらパソコンを開き、課題をこなしていた。
その途中、ライブ後にスタッフに言われた言葉を思い出した。

帰ろうとして大荷物を持ちながらライブハウスを出ようとした時。
「待って待って!」
スタッフらしき人が「タクシー呼んだから乗って」と言ってきた。
みんな黙る。
「そんな大荷物じゃ移動大変でしょ。タクシー呼んだからさ、それで行きなよ。あ、お金はこっちで負担するから…」
スタッフが意気揚々とこちらを見るが、みんな何も言わなかった。
多分、同じ気持ちだったと思う。
「いいです、そーゆーの」
「…はい?」
「タクシーとかいらないんで。そこまでしてもらわなくて大丈夫です」
「いやいや、みんなお疲れでしょ?佐藤さんからもそーゆーの頼まれてるからさ…」
「佐藤さんに言っといて下さい。そーゆー対応しなくていいんで、って。…俺ら、そーゆービップなバンドじゃねーし。佐藤さんが推してくれてるのはありがたいと思ってますけど、今は気持ちだけでありがたいって」
「…ねぇ」
スタッフは視線を逸らしながら言った。
「君らがやりたいって思ってるのって、なんなの?売れたいんじゃないの?」
その問いに大介はしばらく黙った後、口を開いた。
「売れる事が全てじゃないっす」

徒歩で駅まで向かう。
なんだか大介はイライラしていた。

ボーッとしてしまい、ハッとなる。
9月15日までに提出しなければならない課題だ。
タイトルはまだ決めておらず、ただひたすら文字を打ち込む。
タイトルを決めるのは最後。
曲を創る時と一緒だ。
自分が受け持った患者の症例を元に、どんなケアを行い、その結果どうだったのか考察を踏まえて書き出す。
気づかない間に眠っており、隣に座っている大介にイヤホンを引っ張られる。
「…ぅあ」
「お疲れか?今日やばかったもんな」
「んなこと言ってらんないよ。やんなきゃ……」
陽向は虚ろな目をパソコンに向けた。

広島は今までのライブの中で一番盛り上がったと言っても過言ではなかった。
大阪で来てくれていた人達もちらほらいて、テンションが上がってしまった。
野球選手の話になり、野球好きの洋平が応援歌を歌い出すものだから大盛り上がりしてしまったのだ。
演奏もなかなかで、今まで色んなところを回って強くなったのかな…なんて思ったりもした。
そして初めてのアンコール。
ライブハウスのスタッフからOKが出たので2曲だけ演らせてもらった。
今までライブではほとんど演らない曲を演奏し、ドキドキしたけどそれもまた楽しかった。
帰り際、大阪から来てくれていた人達と写真を撮り、新幹線の時間を気にしながらいそいそと帰った。

今日のことを思い出してにやける。
「楽しかったね、今日」
「うん、すっげー楽しかった!」
小学生みたいな会話をしていると、後ろで洋平が「うぉぉ!やべぇ!」と叫んだ。
みんなで一斉に目を向ける。
「どーした?」
「この前北海道行った時さ、SNSに投稿したじゃん?めちゃくちゃ返信きてた!」
「返信?」
「そーそー!しかも俺のフォロワー増えてる…」
洋平はSNSに投稿された文章を読んでくれた。
20件ほどあったみたいだ。
『この間のライブ楽しかったです!また北海道来て下さい!』『ハイウェイ、仲良しでうらやましー!』『陽向ちゃんの変顔重宝します!』『大介さん、安定のホームレス』『洋平さんやっぱイケメン!』『カイトさんの顔まじウケるwww』などなど。
「それ、返信すんの?」
「するよー!大事なお客さんだもん。またライブ来てくれたらいーなー。めっちゃ嬉しい、こーゆーの」
洋平はニコニコしながらスマホをいじった。
「よーちゃんはそーゆーとこ偉いよねー」
「えー?」
「ちゃんとそーゆーの見てるじゃん」
「って言ってもほぼ1ヶ月ぶりだけど」
「ま、そーだけどさ。あたしそーゆーのいちいち出来ないからさ…偉いなーって思う」
「いやいやー!自分のとこに来てみ?テンション上がっちゃうからー!」
「あはは!それはそーかも」
「陽向、そーゆーこと言って結局全部に返事返しそー!」
洋平はケラケラ笑いながら「1週間くらいかけて」と付け足した。
「間違いない!」と隣で大介が笑う。
「うるさい!」
また4人で笑い合う。

いじられキャラなのにたまにいじってくる洋平と、それに同調して笑い、結局いじりに同調する大介、そしていつもまとめてくれる海斗…たまにおかしなことを言うけど……そして、私、風間陽向は泣き虫で意地っ張りでチビで言いたい事だけ言いまくる口の達者な人。
そんな人達で成り立っている、あたしたち。
この旅が終わった時、一皮剥けたけど変わらない自分たちとまた巡り合うだろう。
そんな気がする。
誰に何と言われようが、いつまでも仲間を、音楽を、愛し生き続ける人達なんだろう。
きっとそうだ。
そうでありたい。
でも、きっとみんなはもっと上を目指したいと思っているんだろうな。
それだけの実力があるし、結果も出ている。
バラバラになるのは時間の問題だ……心のどこかで勝手な寂しさが溢れ出る。
陽向はそれを隠すように再びイヤホンを耳に入れた。


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