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耳にキス、キス、キス。
【女性向け 官能小説】

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 ふたりで住む家を選ぶときに、各部屋の位置だとか水回りのことだとか収納スペースの大きさたとか色々チェックしていった中で、入ってすぐに「ここ、いいね」とふたりの意見が一致した部屋があった。

 それが、ここ。
 南側のリビングに、バルコニーへ出られる大きな窓があるデザイナーズマンションの五階のお部屋。

 ホワイトのアイランドキッチン。
 お料理をしながら窓の外を──空を眺めることができる。

 いくつか妥協しなくてはならないところはあったけど(例えば最寄りの駅からの距離とか、下駄箱の大きさとか)それらが気にならなくなるほどその窓は魅力的に思えた。

 壁一面が窓であるかのように感じるほど大きな窓。

 カーテンは規格外になるため、オーダーメイドとなった。
 上品な深縹のカーテンをつくってもらった。

「今日は良い天気だねえ」
「うん、暑いぐらいね」

 五月。
 休日の朝からリビングのラグの上にふたりで寝転がって窓の外の空と洗濯物を眺めている。

 ヒロキくんもわたしも、引越しの際に部屋着用として買ったリネンシャツをばさりと着て、思い思いに寝転がっている。

 お互いの実家へ行き、挨拶を済ませてからの日々はあっという間だったと思う。

 父も母も思った通り、ヒロキくんのやわらかい笑顔に終始ニコニコして(ヒロキくんが結婚を前提におつき合いしていると言ったとき、わたしはびっくり、両親は目を潤ませて微笑んでいた)話は順調に進んでいった。

“僕はこれから社会人として学ばなくてはならないことがたくさんあります。沙保さんのためにと思うことで、僕は何があっても挫けずやり遂げられると思うのです。若輩者ですが、どうかよろしくお願い致します。”

 そう言ったヒロキくんは、わたしの目にいつもよりも凛々しく映った。

 わたしが二十五を迎える前に結婚したいと考えているということも言っていた。
 経験を積み、お金を貯めて、都度挨拶に伺います、と。

 ヒロキくんのご両親と妹さんも優しくわたしを迎え入れてくれ、わたしは心からホッとした。

 ゴルフの打ちっ放しに行くのがお好きなお父さんと、ヒロキくんに似たやわらかい笑顔のお母さん。
 ピンクがかったアッシュベージュの髪を編み込みにした妹さんは、ヒロキくんみたいに大きな目をしていた。

 ご両親、妹さんにも結婚を前提に付き合っていることを話したヒロキくんは、先に働き始めたわたしから学びながら早く自分が守っていけるようにがんばりたいと言った。

 ヒロキくんのお母さんは、是非ヒロキを用心棒にしてねと言った。
(妹さんがすかさず、お兄ちゃん、鍛えなよ!と言った)

 髪を黒く染めたヒロキくんと、髪を伸ばすことに決めたわたし。
 四月はまるで師走のような慌ただしさの中、過ぎていった。



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