窓-9
モヤモヤした。
彼女がどういう気持ちかわからなかった。
ただ純粋に、懐かしくて連絡を取りたいと思っただけなのかもしれない。
でも──。もしも彼女が今もヒロキくんのことを好きだったとしたら?
わたしは、正直自信がなかった。
あの子はヒロキくんにとって、トラウマになってしまうくらい特別な子なのだから。
ヒロキくんも、あの子のことが好きだったから──。
「……ヒロキくんは、何て答えたの?」
そう聞くのが精いっぱいだった。
自分の中に沸き起こる、モヤモヤとした気持ちが言葉になって出ていきそうで怖かった。
「……」
ヒロキくんが黙ったまま、わたしから目をそらした。
何? どういうこと?
どうして目をそらすの?
つんのめりそうになりながらエスカレーターからおりる。
わたしは追い立てられるように通路を歩き、ヒロキくんを振り返った。
「ヒロキくん?」
ヒロキくんが怒ったような顔をしてわたしを見つめ返した。
「沙保」
「は、はい。ごめんなさい」
「何謝ってんの。僕があの子に連絡してもいいって答えたと思ってるの?」
「えっ、あ……だって……」
「だって、じゃないよ。前も言ったけど、確かにあの子は初恋の子だけど沙保にはかなわないんだよ。僕がいいって答えるわけないじゃんか。聞かなくてもわかってよ」
わたしは小さく頷くと、ごめんねと言ってヒロキくんの手を取った。それから、ありがとうとも。
ヒロキくんが無言でわたしの手を握り返す。
モヤモヤした気持ちは一瞬にして吹き飛んでしまった。疑ってしまった自分を恥ずかしくも思った。
「じゃあさ、罰として今日帰ったら僕の言うことを聞いてくれない?」
「うん、わかった。ごめんね」
「約束ね」
わたしが頷くと、ヒロキくんは嬉しそうににっこりと微笑んだ。
やっぱり笑顔のヒロキくんは天使みたいだと思った。
その後、いくつか売り場をまわり、欲しいものを買って食事をしてからショッピングモールをあとにした。
たっぷりの荷物を抱え、珈琲豆も忘れずに買って帰宅する。
あたりはもう真っ暗だった。
「──あぁ疲れた」
「たくさん歩いたもんね」
笑いながら荷物をソファの横に置く。
ガサガサと大きな音がした。
珈琲豆を密閉容器にうつす。
お会計をしている間に豆を挽いてもらったので、密閉容器にうつすだけで珈琲の良い香りが立ち込めた。
やっぱり、この香りってホッとする。
すかさずヒロキくんが、珈琲を淹れようと立ち上がった。