拾伍-2
後ろどりでまぐわう八魔多の腰振りは、徐々に振幅が大きくなり、速さも幾分増していった。それに伴い、宇乃の口から漏れる甘い呻きも色濃くなっていく。
女殺しの形状を持つ魔羅のせいだけではなく、様々な淫薬の卓効もあり、宇乃はどんどん絶頂の淵へと追い込まれていった。
そして、男の突き入れの数が四百三十二を越える頃、宇乃は百八煩悩を四度(よたび)突き動かされる勘定になり、ついには身体を激しく震わせて逝きを晒した。
「おうおう。登り詰めた時の締め付けもなかなか味わい深い。……これは、くノ一の碧玉、あいつ以上の上品(じょうぼん:高級品)かも知れぬわい」
魔羅を一度引き抜くと、八魔多はあぐらをかき、対面座位で交わった。
憎々しい男と顔を突き合わせ、宇乃はその顔面をかきむしってやりたかった。しかし、依然、後ろ手に縛られているのでそれは不可能。唾を吐きかけてやりたかったが、猿ぐつわを噛まされているのでそれも出来ない。ただ、睨みつけるよりすべはなかった。そして、悲しいかな、野太い肉茎で女陰を突き上げられると、睨む眼(まなこ)は喜悦にゆがみ、交接が続くと気持ちよさのあまり噎(む)せてしまうのだった。
「口を塞がれていると喘ぐことが出来ぬか。ふむ……」八魔多は、しばし宇乃の表情を観察していたが、「猿ぐつわを外したとて噛みつくような真似はすまい」と、口の戒めを解いてやった。
思い切り声を出せるようになった宇乃は相手を罵倒しようと思ったが、下から大きく突き上げられ、何度も何度も突き上げられ、口から出たのは甘美な喘ぎだけだった。そして、大きく喘ぐことが出来るようになると、それだけ快感も深まり、宇乃はいともたやすく絶頂の淵へと転落した。
それからはもう、八魔多の独擅場だった。
座位から側位、正常位と次々に体位を変え、そのたびに宇乃は凄絶に逝きを晒した。腕の戒めも解かれると、女は男にひっしと抱きつき、自ら腰を擦り付けて快感をむさぼった。
交合は長時間に及び、八魔多も数度、精を解き放ったが、魔羅が萎えることはいささかもなく、宇乃から悦びを引き出し続けた。
男の場合は射精して快感を味わうと、しばらくは覚めてしまうものであるが、女の場合は快感が快感を呼び、果てしなく淫夢境をさまようことになる。宇乃の目はもう焦点が定まらず、喘ぎ声の上げすぎで声もかすれてきていた。そして、過度な快楽(けらく)のために神経も絶えられなくなり、ついには失神してしまった。
しかし、ここで手を弛めないのが八魔多の恐ろしいところ。濡れ布巾を頬に当て女を覚醒させると、性懲りも無くまた交接を開始した。
淫堕の炎は何度も宇乃を焼き尽くし、彼女の黒目はグルンと目蓋の裏に引っ込んで白目を晒し、唇はだらしなく半開きになり涎(よだれ)を垂れ流していた。
五度目の吐精を終えた八魔多が、ようやく身体を離す頃には、宇乃は手脚を投げ出し、仰臥したまま四肢を微かに痙攣させていた。
「さあて、ようやく木偶(でく)に成り下がったようだな。……これでこの女は俺様の言いなりだ」
つま先で宇乃の頬を軽く小突き、八魔多はにやりとした。そして、女の紅潮した耳元に口を寄せ、こうささやいた。
「おまえの使命は、真田幸村を殺めることだ。……ふふ、おまえなら怪しまれずに幸村に近づくことが出来よう。ほれ、この毒針を授ける。今は眠くてたまらぬだろうから、まずは眠れ。そして、目覚めた後、真田の陣営に戻り、幸村の背後から毒針を首に突き刺せ。……それを見事成し遂げたあかつきには、また、おまえをたっぷりと可愛がってあげようぞ」
八魔多特有の暗示法だった。宇乃は毒針を握らされると、眠りの世界へと落ちていった。少なくとも八魔多にはそう見えた。
だが、宇乃は目をつむったものの、辛うじて意識は保っていた。髪の毛一本ほどの頼りない意識ではあったが、彼女は何とか自分を保っていた。本当に呆けてしまいそうな悦楽の連続ではあったが、宇乃の心の奥底で、ひとつの場面が何度も再現されていた。それは、お国が自ら舌を噛み切って自害した場面。それゆえに宇乃の自我は何とか崩壊を免れていた。
八魔多が宇乃に背を向けて下帯を着けようとしている。その後ろで、宇乃は音もなく半身を起こした。とてつもなく身体が重かったが、彼女は渾身の力を込めてしゃがむ姿勢をとった。そして、残る力の全てを振り絞って跳躍した。手には毒針。
殺気を感じたか、八魔多が振り向く。迫る針。のけ反る巨漢。宇乃は相手の頸動脈を狙ったが、身体をひねって素早く跳んだ八魔多の左腕に毒針は突き立った。
「女! 何しやがるっ!!」
八魔多は吠えながら宇乃を蹴り飛ばした。そして、素早く毒針を抜くと、傷口に唇を当て毒を吸い出した。その様を、壁際に飛ばされた宇乃が口惜しそうに見つめ、つぶやいた。
「ちっ。……仕留め損ねたか」
「このあまっ!!」
叫んで八魔多は宇乃に飛びかかり、首っ玉をごつい右手でギリリと絞め上げた。宇乃は食い込む指に爪を立てたが八魔多はなおも力を込める。右手だけでも凄まじい剛力である。細い首はへし折れそうだ。
宇乃は総身の力を爪に集める。八魔多の手から血が滲む。しかし、食い込むごつい指は全く弛まない。
宇乃の視界がゆがみ、強い耳鳴りがしてきた。そして、四肢が痙攣してきた。