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カノン
【学園物 官能小説】

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カノン-6

 羽柴 潤がわたしを見たまま無言でこっくりと頷く。
 わたしは珈琲をひとくち飲んで、ほっと息をついた。
 おいしい。
 ほんのり甘みを感じる。お砂糖は羽柴 潤もいつも入れないと言っていた。

「三枝先生、恋人がいるんだって。憧れの先生だから……びっくりしちゃった」
「そうなんだ」
「うん。さっき聞いちゃって。そりゃそうだよね、先生くらい格好良かったら彼女くらいいるよね」

 はははっと、わたしはカップを見ながら笑った。きっと先生にお似合いの、とっても素敵なひとだと思うんだ絶対ね──なんて言いながら。

「花音ちゃん」
「うん?」

 わたしが羽柴 潤のほうへ視線を向けた瞬間、羽柴 潤がふわりとわたしの身体を包むようにして抱き寄せた。

「えっ、ちょっ──」
「いいよ、我慢しなくて。無理して笑わなくていいから」
「やだ、そんな深刻じゃないのよ」
「大丈夫だから。泣いていいんだよ」
「そんな──」

 そう言ったきり、わたしは何も言えなくなってしまった。
 涙が、勝手に溢れてとまらない。

 とくん、とくん。羽柴 潤の鼓動が聞こえる。
 なんて安心する音なんだろう。
 あったかくて、心地良い──。

「俺、いつも花音ちゃんのことを見てるから花音ちゃんが三枝を特別な目で見ていることに気付いてた。三枝を見ているときの花音ちゃん、キラキラしていてすっげぇ可愛いんだもん、悔しいけどさあ。だからさ、俺はわかってるから」

 羽柴 潤……。
 わたしは目を閉じて、こくんと小さく頷いた。涙がぽろぽろと零れていった。

 先生。三枝先生。
 いつも見ていました。先生の笑顔が大好きでした。
 先生とたくさんお話ができた日は幸せすぎて、晩ご飯を食べるのに時間がかかってしまいました。胸がいっぱいで、ごはんがのどを通らなくて──。

 三枝先生。
 先生のことが、大好きでした……。

「……やべぇ、ごめん」
「え?」
「こんなときにホント悪い、ごめん。この空気でこれはないわって自分でも思うんだけどさ」
「……?」
「勃ってきた、ごめん」
「えっ」
「俺ほんと花音ちゃんのこと大好きだからさぁ、こうしてくっついてると……。でも俺、弱ってる女の子襲うような汚い真似はしないから大丈夫だよ」
「ありがとう……優しいね」
「当たり前じゃん。俺ってジェントルマンだからさあ」

 冗談めかして言いながら、でもやっぱりこの状況はなかなかきついなぁなんてぼやいてる。
 わたしの悲しみを減らそうと、明るく接してくれているのかな。
 羽柴 潤。お調子者でへらへらしてて変なやつだけど──すごくいいやつだ。

「わたしなんかのどこがいいの?」
「ぜんぶ。まあ、さっき言ったとおり最初はカノンの擬人化かよって思っただけだったんだけど、気づいたら好きになってた。俺の存在を印象付けるために追っかけ回してさあ。もう必死。ほんと大好き。だからこの状況はかなりきつい。あー、やべぇ」


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