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カノン
【学園物 官能小説】

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カノン-1

 野々原 花音。16歳。
 好みのタイプはずばり、数学の三枝先生みたいな知的でクールなオトナのひと!

 まるで芸名みたいな名前も、三枝先生が覚えやすくていいなと言ってくれたから前よりもっと好きになった。
 名前や見た目と性格のギャップがありすぎるっていつも言われていたけれど、先生がおもしろいやつだなって笑ってくれたから自信が持てた。

 三枝先生との年の差は8つ。
 先生に恋するなんて馬鹿だって言われるかもしれない──けど、好きになっちゃったんだからしかたない!

 三枝先生のチョークを持つ細くて長い指にわたしはいつも見惚れてしまう。
 笑うとぷっくりとした涙袋ができる奥二重の目も、綺麗な歯並びも、シャツから覗く鎖骨もみんなみんな格好良い。
 先生はわたしの理想通り。憧れのひと──。

「花音ちゃーん!」

 能天気な声が後ろから聞こえた。
 わたしは歩みを速めた。

「花音ちゃんも遅刻寸前? 珍しいね」

 ススっとわたしの横に並んで馴れ馴れしくしゃべりかけてくるこいつ、羽柴 潤。
 へらへら笑顔を振りまいて、愛想が良くって、まるで子犬みたいなやつ。割と女子受けがいい。
 でも──、わたしは超苦手!

「ねえねえ花音ちゃん」
「なによっ、もう。わたし急いでるのっ」

 くりくりしたふたえの瞳がわたしを覗き込む。まったく……この子犬みたいな目と口元が気に入らないのよ!

「知ってる。だって遅刻寸前だもんね」
「じゃあ話しかけないで」
「いいじゃん。こんなときくらいしか花音ちゃんとふたりっきりで話せないんだしさぁー」
「そんなの知らないわよ」
「花音ちゃん、いっつも女の子たちの輪の中にいるからさぁ」
「それは羽柴くんだって同じでしょ」
「えっ、違うよー」

 ふたりして角を曲がる。
 この男、白々しい顔をしちゃって。
 わたしは真奈美や理香たち、いつものお弁当メンバーといつも一緒にいるだけだけど、この羽柴 潤は違う。
 まさに取り巻きを引き連れてるって感じなんだから。

「ねぇ花音ちゃん、そろそろ番号とかアドレスとかIDとかおしえてよー」
「嫌よ」
「毎朝ラブコールしてあげるのに」
「結構よ。わたしよりあんたのほうがモーニングコールが必要なんじゃない? わたしは今日たまたま寝不足で遅れちゃったけど、あんた割と遅刻寸前率高いでしょ」
「わぁ、花音ちゃん俺のこと超知ってるじゃん。嬉しいなあ」
「みんな知ってることよ」

 イライラする。
 なんでこんなやつと一緒に登校しなきゃなんないのよ。

「なんで寝不足? 悩み事?」
「あんたには関係ないわ」
「つれないなぁ。花音ちゃんってお肌も髪も目もすごく色素が薄くて儚げな美少女なのに、ほんと俺に対して冷たいよなあ」
「何言ってんの。馬鹿じゃないの?」

 わたしは呆れて羽柴 潤を見上げた。
 こいつ、また背が伸びた。
 まぁ三枝先生にはかなわないけど。


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