カノン-3
わたしは思わずにやけてしまう頬をおさえながら、その後の授業を受けた。
楽しみが後に控えていると思うと、苦手な教科もあっという間だった。
いつものお弁当メンバーとお昼を過ごし、午後の授業も気力で乗り切った。
国語の授業中に、羽柴 潤がヘンテコな恋の短歌を詠んでいたのがなんかムカついた。
放課後、理香は写真部の部室へ、沙耶ちゃんとみっかは美術室へ、真奈美とのんちゃんは下校、そしてわたしは職員室へ向かった。
わたしは元々数学は大嫌い。
三枝先生が数学教師じゃなかったら、こんなに一生懸命取り組むことってなかったんじゃないかなと思ってる。
好きな教科・得意な教科って、そのときの先生がどんなひとかによって変わるのかもしれないな……。
「──それで、こうなる。これさえ覚えておけば大丈夫。数学の答えはいつもひとつだからね」
三枝先生の綺麗な指が赤い文字をスラスラと綴っていく。ほんとうに綺麗な指をしている。
わたしは一生懸命その公式を頭に入れながら、でもずっと先生の指の動きを追っていた。
「答えはひとつって考えると、なんだか数学ってかっこいいですね」
「そうだよー。必ずひとつの答えに辿り着けるからね、野々原もな」
「はぁい。次の小テストはもっといい点数取れるようにがんばります!」
「うん。期待してるぞ」
にっこり。三枝先生がわたしの大好きな笑顔を向けてくれた。
あぁもうほんと格好良いーっ!
「先生、遅くまでありがとうございます」
「野々原が数学を好きになってくれるなら、先生はいくらでも付き合うからな」
「わぁ、心強いです」
わたしは数学じゃなくて先生が好きなんだけど、と心の中で付け足した。
「先生は昔からずっと数学が好きなんですか?」
「いや、実は俺も数学は苦手なほうだった」
「えっ、そうなんですか?」
先生がそうなんだよと苦笑しながら言った。
「野々原、今日がんばってくれたから話すけど。実は中学生のときにさ、クラスで一番賢い女の子に憧れててさ。その子と対等に話がしたくって苦手な数学も一生懸命勉強したんだ。そのときの俺の家庭教師がすごく数学好きなひとでさ。女の子に話しかけるキッカケと数学を丁寧におしえてくれてね。そのときに数学のおもしろさに芽生えたってわけ」
わたしは、先生にもそういうエピソードがあったんですねとドキドキしながら言った。
格好良い先生も、誰かに憧れて一生懸命勉強をしていたなんて。わたしと同じ……。
わたしが先生をより近しく感じた次の瞬間、先生の斜め前に座っている国語の三浦先生がニヤニヤ笑いながら衝撃的な事実をさらっと言った。
「あぁ、三枝先生が前に言っていた恋人のこと?」
──こっ、こっこっ!?
恋人ぉぉぉぉお!!?
「ははっ、そうなんですよ。三浦先生、よく覚えてますね、恥ずかしいですよ」
「そりゃあ、中学生の頃の憧れの女の子とずーっと付き合ってるなんてピュアな話、なかなか忘れないよ(笑)」