慰めあう女-2
ようやく引き抜かれたべっ甲製の張形は、
(こんな大きさの淫具が腹の中に収まっていたのか?!)
…と、皆が驚く程の長さ、太さであった。
さっきまで椿の胎内にあった張形は白濁液や糞便にまみれており、ほんのりと湯気を立てて生臭い悪臭を漂わせる。
引き抜かれた後も膣口と肛門はぽっかりと開き切ったままで、奥からひくついた赤黒い内蔵を覗かせていた。
女の生き恥、ここに極まれり!!
一同は椿のあさましい姿に言葉を失った。
見てはならないものを見てしまった…という後味の悪さを全員が感じていた。
「…ちっ。何が御息女だ。とんだ淫売じゃねぇか。場末の飯盛女の方がまだマシだぜ」
小者の一人がこっそり吐き捨てた。
口には出さないが、心中は誰もが同じ気持ちだったに違いない。
この後、奉行所は箝口令を敷いて椿の身分やここに至る事情をひた隠しに隠した。
しかし、いくら隠しても醜聞というのは人の口から口へと広まるものだ。
(老中・沼田様の妾腹の御息女が悪漢の一味に捕らわれて二度と嫁に行けない身体にされた…)
という悪い噂が立ち、沼田義興が密かに進めていた椿の縁談は、後にことごとく破談となった。
女の身体と人生に取り返しのつかない傷を負わせる…という弦斎の強烈な悪意が、ここでも功を奏したことになる。
こうしてようやく助け出された椿は、お京と同じく大川了順宅へ運ばれて治療を受けることになった。
ことを出来るだけ秘密裏に運ぼうという父・沼田義興の配慮である。
運ばれてきた椿を診て了順は思わず言葉を失った。
その身体の状態は、前夜手術したお京以上に悲惨なものであった。
二日間に渡る輪姦と、丸一昼夜も巨大な張形を押し込まれていたせいで、ぐちゃぐちゃに裂けた女陰と肛門。
その二つの穴を洗浄、縫合し、座薬を挿入したりと処置にあたったが、膣内と腸内は傷だらけ、鉗子や膣鏡を差し込まれた子宮口までもが著しく傷ついていたため、その施術は困難を極めた。
切り取られた包皮はもはや取り戻しようがなく、椿は陰核剥き出しのままで生きる他ない。
その陰核はろくに消毒もしない鍼に貫かれたため酷く化膿しており、了順の治療がなければそのまま腐って落ちるところであった。
手術はかろうじて上手くいった。
しかしその後、椿は阿片の禁断症状が出て、一週間ほども苦しみ続けたのある。
了順邸の奥座敷で椿は暴れられないように手足を厳重に拘束され、股間にはおむつを当てられた。
全身の痛みに身体を震わせて泣き叫び、嘔吐と失禁を繰り返す椿。
多額の礼金と引き換えに厳重に口止めされた産婆たちが集められてその世話をしたが、症状が落ち着くまでの間、食事と局部の消毒、おむつの交換と垂れ流す糞尿と嘔吐の始末に大わらわであった。
唯一救いと言えるのは、あれほどの凌辱を受けたにもかかわらず、ほどなくしてお京と椿に生理が来たことだ。
秘裂から赤く流れ出す経血と股間に当てられる紙製の生理帯は、いつもなら女を憂鬱な気持ちにさせるものだが、今回ばかりは喜ばしいものだった。
誰のものともわからぬ子を孕む辛さを経験させずに済んだのが、治療にあたった了順も我がことのように嬉しかった。
快方に向かってきた二人は現在、同じ座敷に移されて寝起きを共にするようになっている。
これは周囲の手間を軽減するためだが、傷が癒えていく過程で突然情緒不安定になって間違いを起こさぬよう、お互いを監視するためでもある。
また凌辱され秘所に醜く大きな傷を負った女同士で他人には言えぬ辛さや本音をこっそり話し合い、心の傷をも癒し合えるように…と考えた了順の知恵である。
大二郎と豆岩が頻繁に見舞いに来ては花や菓子などを置いていくが、怪我をした場所が場所なので、了順が診察に現れるとすぐに追い返されてしまう。
二人が寿伯邸での凄惨な凌辱を思い出さないように、出来るだけ男を遠ざけておきたいという了順の配慮もあった。
実はこの間、もう一つ不幸があった。
それは父親であり、お京の初めての男でもある仏の長兵衛の死だった。
元々病気がちで半分寝たきりだった長兵衛は、お京が大怪我をしたと聞くとすっかりふさぎ込んでしまい、「お京すまねぇ、許してくんろ」と叫びながら何度もうなされるようになった。
そしてある雨の朝、世話をしていた長屋の女房がふと目を離した隙に首をくくってしまったのだ。
葬儀は小雨が降りしきる中、長屋の仲間内でしめやかに行われた。
豆岩はお京の身体が回復して長屋に戻った時に言うつもりである。
…ここは、了順邸の奥座敷。
療養中のお京と椿が寝かされている部屋である。
開けられた障子の向こうには、小さな中庭が見えた。
外には小雨が降っている。今日が長兵衛の葬儀であることを二人は知らない。
「ねぇ…お嬢さん?」
お京は隣に寝ている椿に向かって話しかける。
「……………」
椿は何も答えなかった。
周囲の者が色々と話しかけても椿は一言二言返事をするだけで、殆ど口をきかない。
身体に受けた傷は癒えつつあるが、心に負った大きな傷は未だ癒えていない。
弦斎一味に凌辱される以前から男女交合の快楽を知っており、欲求不満気味だったお京と違い、椿は何も知らないその身体をさんざんに犯され、虐待を受けたのである。
さらにお京よりもずっと長い、まるまる四日間も苦しめられ、阿片まで盛られたのだ。
すっかり心を閉ざして何事にも無感動になってしまうのも仕方のないことだった。
「あたしがこんな目に遭ったのも…きっと、神様のバチが当たったんです。お嬢さんにも…何か、心当たりがあるんじゃないですか?」
背を向ける椿に構わずお京が話を続けようとした時だった。
何かに弾かれたように突然、椿が跳ね起きて向き直った。