秋山親子の奮戦-4
ごくっ。ごくっ。
お京はようやく息を吹き返した。
「お嬢さん! お嬢さん! しっかりして下せえっ!!」
「岩…。馬鹿…野…郎…。お前、来る…のが…遅すぎ……」
意識を取り戻したお京は息も絶え絶えに言った。
「大丈夫です! あっしがついてやすからね! すぐ医者に連れて行きやす!!」
豆岩はお京を背負って逃げようとするが、股間に突き刺さった矢が邪魔で背負えない。
かといって無理に矢を抜けば出血が酷くなるばかりだ。
「お嬢さん、すまねぇ。ちょっと辛いが、堪えておくんなさい!」
岩五郎は懐から手拭いを取り出した。
「いいよ…。かまわず…やっと…くれ…」
これから何をするのか察したお京は手拭いを咥える。
豆岩は秘所に突き刺さった矢を掴み、むん! と力を込めて二つに叩き折った。 しかし、この行為は傷口をえぐり回すに等しい。
バキッ!!
「む"く"う"ぅお"お"お"お"お"お"お"お"お"―――っっっ!!!!!」
…がくっ。
あまりの激痛にお京は泡を吹いて再び悶絶、がっくりと倒れ込んだ。それを豆岩が抱き止める。
突き刺さった鏃は膣口から三寸ほど飛び出すだけである。これなら背負うのに邪魔にならない。
「お嬢さん! もう少しの辛抱ですぜ!!」
豆岩は焼酎を口に含んで局部にぶっと吹きかけ、晒し布で下腹部をきつく縛り上げる。
これ以上の出血を防ぐためだ。
お京を背負った豆岩は、その身体を自分の身体にしっかりと括りつけた。
「この曲者め! その女は渡さんぞっ!!」
「でええ〜〜〜い!!」
びしっ!
豆岩は行く手に立ちはだかる浪人を天秤棒でしたたかに打ちのめす。
「町人のくせに猪口才な!!」
さらに浪人たちが行く手を阻む。
ばしゅっ! どしゅっ!
しかし、その者たちは飛び出してきた藤兵衛がすり抜けざまに脇から斬っていた。
「屋敷のあちこちに火をつけてきたぞい! これで奴らも大慌てじゃろう! 椿殿はわしらが助け出すゆえ、お前は一足先に逃げてお京を了順先生のところに連れてゆけ!!」
「ご隠居様!! すまねぇ!!」
豆岩はそう言うと、脱兎の如く駆け出した。
なりは小さいがすばしっこいのが身上だ。
「さぁ、どっからでもかかってこい!! 『紀州の小天狗』と異名をとった柳剛流の腕の冴え、目にもの見せてくれん!!」
ちゃきっ。
豆岩の去った方向に背を向けて、刀を構え直した藤兵衛が言い放つ。
「フフ…。爺、なかなかやるアルね。私戦いたいヨ」
そう言って進み出たのは、陳大人である。
「お主、支那人か…。抜け荷一味らしい顔ぶれじゃな…」
そう言って藤兵衛が進み出ると、陳もヌンチャクを構えて間合いを詰めた。
(こやつの持っておる木の棒は一体何じゃ? こんなもので刀と戦おうというのか?)
初めて見るヌンチャクに藤兵衛は当惑気味だ。
何処から何が飛んできてもいいようにあくまでも用心深く構えた。
しかし陳は自信たっぷりに奇声を上げて藤兵衛を威嚇する。
「ほわちゃ〜〜〜!!!」
ヒュン、ヒュン、ヒュン!
空気を切り裂く音と共にヌンチャクを振り回して脇の下でびしっと止める。
「きえ――――ッッッ!!!」
次の瞬間、凄まじい勢いで藤兵衛に襲いかかった。
ブン! ブン! ブン!
上から、下から、右から、左から、斜めから。
ありとあらゆる方向から襲い来るヌンチャクの変幻自在な攻撃に藤兵衛は思わずたじろいた。
ヌンチャクという武器の発祥は琉球地方だと言われ、その棒の長さは平均して25〜40cm。
紐の長さを足せば、リーチ的には藤兵衛の愛刀・井上真改二尺三寸(70cm)にも引けは取らない。
振り回した時の遠心力により威力が倍化するので、頭部に一撃でもくらえば頭蓋骨粉砕は確実。
また腕や足の関節に絡めるだけでも、相手を骨折させることが可能である。
ヌンチャクとはそれほどに恐ろしい武器なのだ。
さしもの藤兵衛も身をかわすのがやっとという状態であった。
その頃、弦斎は…。
笹原椿が監禁されている秘密の地下蔵にいた。
藤兵衛や大二郎の姿を見るなり、戦いもせずにここにやってきたのである。
椿がひり出した糞尿の匂い、男女が交合した後の生臭い匂いが混じり合って酷い悪臭だ。
その足元には、椿が死んだようにぐったりしている。
大きく開かれた脚の付け根にある玉門と菊門は裂けて血にまみれ、中身がはみ出している。
弦斎はしゃがみ込むと椿の頭を掴んで揺り動かした。
「ふふふ…。椿よ、喜べ。お前を救いにやってきた者がおるぞ」
「う、ううう…」
弦斎の言葉の意味を理解して椿はか細い声で啼いた。
「だが、それはぬか喜びというものだ。俺はお前を決して離しはせん。地獄まで一緒に連れてゆく」
そう言うが早いか、弦斎は椿の身体に縄をかけ、素早く縛り直した。
右手首と右足首、左手首と左足首をそれぞれまとめて縛ると、その身体をひっくり返す。
俗に言う『マングリ返し』の体勢である。弦斎は椿をそのまま柱に括りつけた。
土手肉は腫れ上がって大きな口を開けたままの玉門と菊門。血と淫蜜と精水にまみれてガビガビに固まっている。
その二つの穴がよく見える体勢だ。
「お前を助けに来た連中に、一番恥ずかしい惨めな姿でご対面させてやるわ!」
弦斎の凌辱はその程度では終わらなかった。
左手で女陰に手をかけ、おさねを覆い隠す皮を思い切り摘み上げた。
懐から剃刀を取り出し、包皮の先端に押し当てて、すうっ…と下に引く。
すぱっ!
「…ッッッッッ!!!」
猿轡をされたままで声にならない椿の苦悶の嗚咽。
次の瞬間、弦斎の手には一寸(約3cm)足らずの血まみれの肉片がぶら下がっていた。