元彼1-2
どんなに好きでも、愛していても、二度と口には出来ない。できない。デキナイ…。
「あ…」
気が付くと、涙を流していた。
「ふっ…うぅ…」
会いたい…。
ただそれだけだった。寂しくて、辛くて、友達を羨んで、愛されたくて、そんな自分が大嫌いで、でもどうしようもなかった…。
彼を、好きで好きでいる訳じゃない。だから『やめる』事も『嫌い』になる事も出来ない。
ただ、どうしようもなく好きなだけ…。
―ピピピピ!
またトモ?そう思って重たい体を起こしてベッド脇に置いたカバンから携帯を取り出した。そして表面のディスプレイを見て私は一瞬凍り付いた。
「…っ嘘…」
元彼からだった…。私は突然の彼からの電話に、高鳴る心臓を押さえ切れず、そのまま電話に出た。
「…も、もしもし?」
「よ、久しぶり」
「久しぶり…」
「どうした?泣いてんのか?」
―!
忘れていた。彼は察しが良かった。元彼、藤井 拓哉は、理屈屋で、それでいてお人好しで、肌は不健康に白く、まつげは女の子より長い、でも内面はとても頼りになる人だった。そして、落ち着きのある物言いと、哀愁のあるあの雰囲気にいつも魅せられていた。そして私は、いつも拓哉にだけは嘘が付けなかった。でも意地っ張りな私は…。
「泣いてないよ」
「泣いてんじゃん」
「う…」
無駄な抵抗だった。だから…
「突然電話なんて、めずらしいね。何かあったの?」と話題を変えてみる。
「なんか…話がしたくて…」
「…なんだよ、それ……っ…」
ずるい…せっかく話題を変えたのに…。その言葉が死ぬほど嬉しかった。もう我慢できなかった。2年分の淋しさと悲しさと、それに耐えられない悔しさが、気が付けば涙になって溢れていた…。
「う…ふぇ…ひっく…タク…うぅっ」
「柳田?大丈夫か?」
「タク…会いたいっ…」
「え…」
「会いたいよぉ!拓哉!っもう…どうしたらいいか、分からないんだよぉ〜…」
涙でグチャグチャになりながら、ただ会いたい。それだけが、今の私の精一杯の自己主張だった。
「分かった…すぐ行くから、待ってろ」
「ん…」
ぐずぐずの鼻声で、電話を切った。何であんな事言ってしまったんだろう…久しぶりの電話だったのに。
そう思っていても、気持ちとは裏腹に、涙は止まってくれない。
電話を切ってから約15分。インターホンが鳴った。
「よ…」
ドアを開けると、雨で濡れた拓哉が立っていた。
「傘、ささなかったの?」私は、涙声になっていた。おまけに顔も鼻も真っ赤。
「傘、親が持っていっちゃって…」
「親が?…まぁ、とりあえず入って?風引いちゃう」
「あぁ、お邪魔します」
きっと…傘もささずに、急いできてくれたんだ…。そう思うと、少し嬉しかった。
私はタオルを差し出して、頭を拭くように促した。
「大丈夫か?」
大雑把に拭き終えた頭をさらして、彼が真っすぐに私を見た。
「うん…」
「嘘つき…」
「嘘じゃない!」
私は少しムキになった。すると拓哉が切なそうに、私の頬を撫でた。
「俺の前で嘘付くなよっ…」
「……!?」
拓哉はそう言うと、いきなり私を抱き締めてきた。私は突然の事にびっくりした。そして懐かしい拓哉の匂いに心臓が高鳴った。