残酷の一夜-3
「あああああっ!! 出るっ!! 出るぞっ!!!」
びくびくびくっ!!
やっと訪れた絶頂に寿伯は思わず絶叫した。
どぴゅっ!! どぴゅどぴゅっ!!
お小夜の胎内で肉棒が爆発する。結合部からどろり…と流れ出す精汁も、老人にしては量が多いものであった。
「…もう死んだアルね?」
陳が首から両腕を離した。
お小夜は目を見開いたまま、凄まじい形相で絶命している。
寿伯はしなびたイチモツを抜き取ると、お小夜を寝かせてやった。
「はぁ…はぁ…。とても良かったぞ。お嬢ちゃんの亡骸はお父っつぁんの許にきっと送り届けてやるからな」
そう言って寿伯はお小夜の死に顔を撫でながら、瞼を閉じてやるのだった。
しかし、その手には何故か巨大な張形が握られていた。
一方、その一部始終を目の当たりにした静音は…。
(許せない!! 罪のない娘を慰み物にして命まで奪うとは!! こやつらは人ではなくケダモノだ!!)
湧き上がる怒りをこらえるのに必死であった。
お庭番の目的は、相州屋の密貿易の動かぬ証拠を掴むこと。
既に先輩格の忍びが内偵を終えており、新米である静音の初仕事は密貿易に使われている割符を盗み出すことだけであった。
首尾よく盗み出したところで静音に欲が出た。相州屋とつるむ松本寿伯の動向を探ろうとしたのである。
しかし、それがいけなかった。
寿伯らの行う悪魔の所業を見てしまった。
静音はその場にいる三人を刺殺したい衝動を抑えながら、同時に欲情もしていた。
修行ばかりで未だ男を知らない静音には生々しい男女の交合は刺激が強すぎたのだ。
すっかり感じてしまった静音の指はいつしか秘部へと伸びていく。
「はあ……はあ……はあ……」
ちゅくちゅくちゅくちゅく…っ。
蜜壺は褌の中に潜り込んだ二本の指を飲み込んだ。
指が秘裂をなぞり上げ、せわしなく動き続ける。暗闇に響く淫らな水音。
(駄目っ!! こんなところでくじっちゃ…。見つかっちゃうよぉ…っ。でも…指がが止まらないぃぃっ!!)
いつしか淫水は溢れ出し、褌の中心部に大きな染みを作っていた。
その欲情は寿伯が座敷に焚き込めた、女を狂わせる『淫夢香』の効果であることに気付かない。
「寿伯殿!! ネズミが忍び込んでおるようですぞ!! きえ――っ!!」
鋭い気合と共に、天井に向かって槍が繰り出された。
「はっ!!」
静音はいつの間にか『おのれの気配を消す』という忍びとしての本分を忘れ、一匹の『牝』として欲情し、その気配を露わにしていたのだ。
ドスゥ…ッ!!!
「……………ッッッ!!!!!!!!!」
静音が気づいた時は既に遅かった。
天井板を貫く鋭い槍の穂先が静音の欲情した『女』の部分を深々と刺し貫いていた。
厳しい修行に明け暮れて男の味を知らぬ秘部が、最初に迎え入れたのが敵の繰り出す槍であったとは!!
これが儚くも哀しい忍びの宿命である。
「くう…っ!」
微かな声で呻いた静音が自らの股間に手を当てて槍を抜き取ろうとした瞬間。
ぐりんっ!!
静音の身体は一瞬宙に浮き、一回転して天井板に叩きつけられた。
「ぎゃああああああっ!!!」
バキッ!! バキバキバキ…ッ!! …ドサッ!!
叩き割られた天井板と共に静音が降ってきた。驚いて飛び退き、目を見張る寿伯たち。
ズビュッ!!
男が勢いよく槍を抜き取った。串刺しにされた静音の股間からはドクドクと鮮血が流れ出し、畳と寝具を紅く染めてゆく。
「ううう…」
朱に染まったおのれの股座を見つめ、静音は呆然としていた。
(お、お腹が…熱いっ!!)
股間に刺さった槍は胎内で回転して子袋までも突き破り、内蔵を著しく傷つけたようだ。
それがどういう意味か、静音は瞬時に理解した。
自分の余命はいくばくもない。ならば残り少ないおのれの生命を、最後の一瞬まで使命を全うするために使わねばならない。それが忍びだ。
「カッカッカ!! 曲者は間抜けな牝ネズミであったか!! その傷では長くは保つまい、ふうむ…。ちと惜しいことをしたわ!!」
槍を持った男は静音の全身を好色そうな目で舐め回すと、ぺろりと舌を出した。
この浪人、名を山鹿玄斎という。
宝蔵院流の槍の達人であるが生来素行が悪く、師匠に破門され長年諸国をさすらっていたが江戸に流れ着き、寿伯の屋敷の食客となったのはつい最近である。
玄斎はちゃきっ、と槍を構え直すと鋭い怒声を浴びせた。
「さぁ、お前の主は誰だ?! この屋敷で一体何を探っておった?! 言えっ!!」
ボンッ!!
辺りはたちまちもうもうとした煙に包まれる。
静音が懐から取り出した煙玉を叩きつけたのだ。
「げほっ! げほっ! おのれ、小癪な〜!!」
怒りに任せて周囲に槍を突きまくる玄斎。
寿伯も相州屋も陳も悲鳴を上げて座敷から逃げ出した。
ようやく煙が薄らいだ頃には、既に静音の姿はかき消えていた。
「ふんっ。逃げおったか。しかし、そう遠くまで行ける身体ではなかろう。おいっ!! お前たち、追いかけて捕まえて来いっ!!」
玄斎に命令された仲間の浪人たちは、点々と続く血の跡を追って屋敷を飛び出していった。
一刻のち、ここは魚籃坂下。
現在で言えば港区三田四丁目と高輪の境目辺りである。
人気のない夜道を提灯を持った一人の女侍が歩いていた。
彼女の名前は笹原椿(ささはら・つばき)。
髪を若衆髭(わかしゅわげ)に結い上げ、薄紫の小袖に海老茶色の袴。七曜の紋をつけた黒羽織を着て、細身の大小を腰に差しているという姿である。
今年十九になるこの娘。無類の剣術好きで、名のある剣客のいる道場と聞けば遠くまで足繁く通っている。今日も品川の小野塚道場まで出稽古の帰りであった。
ふと、人の気配を感じた椿はぴたりと足を止めた。血の匂いがする。