『望郷ー魂の帰る場所ー第三章……』-8
答えを持つ相手……
すなわち宏行を……
あの日、暗がりから宏行を見据えていた視線。それは、最後の標的を見定めていたのだろうか?
こんなに明るいというのに、どこからか見つめられている様な……まるで、すぐ傍で息を押し殺している様な気さえする。
行動していない訳じゃない、動作に移す機会を伺っているのだろう。宏行には、そう思えてならない。
「どうして俺なんだよ……答えなんて、わかんねぇよ……」
答えもわからぬまま、呻く様に宏行は呟いた。
その日の夜、自室にいる宏行の携帯が着信を告げた。のそりと体を起こして携帯を開くと送信名に宏行は目を見開く。
送信名『田神』……
震える指で通話ボタンを押すと宏行は携帯を耳に当てた。
「もしもし……」
『やぁ、倉持くんかい?こんな時間に悪いね。』
「いえ、大丈夫です。どうしたんですか?」
『うん。段取りが決まったんで、君に連絡しようと思ってね。来週の水曜日の夜に行う予定なんだが、立ち会えるかい?』
ついにその時が来た……
携帯を持つ手に知らず知らずのうちに力がこもる。
それでも動揺を押し殺して宏行は短く承諾の言葉を返した。
決行日は来週の水曜。
後、四日でその日になる。いつ来るかわからない田神の連絡を待っているのは宏行にとって精神的にきつい日々であったが、いざ予定が決まれば違った意味での心理的不安が増していく。
犯人は誰だ……
最も知りたかった答えが水曜日に明かされる。しかし同時に知る事が恐ろしい。何故なら、あの日以降宏行の周りで特に変わった出来事など起きていないからである。
田神が言う通り、犯人は彰人と自分の共通の知り合いだということを前提とするならば、
つまり……
何人もの人間を襲った犯人は、今も何食わぬ顔をして宏行のすぐ側にいるという意味に外ならない。
完璧に無関係を装って……
無論、田神の思惑が外れる可能性だって考えられる。結局のところ、同道巡りの答えのカギは彰人だけが握っているのだ。
「ねぇ宏行、少しは楽しそうにしてよ。せっかく久しぶりに二人っきりで出掛けてるのにさ……なんだかつまんないよ。」
田神から連絡があってから二日後、ファーストフードの一角には宏行と真冬の姿があった。