『望郷ー魂の帰る場所ー第三章……』-3
「真冬、お前……」
「宏行が無事でよかった。だけど、あたしがこんなに心配してたのについうっかり宏行はメールを忘れるんでしょ?あたし一人がバカみたい!だから離して!!もうこんなところにいたくない!!」
真冬が言葉を言い終えると同時に宏行は真冬を振り向かせると両腕で抱き締めようとした。しかし、その腕から逃れようと真冬の握りこぶしが宏行の胸板を叩く。
「嫌!嫌よ離して!!」
抵抗に遭いながらも構わず宏行は真冬の背中に手を回した。依然として頭の中で警鐘は鳴り続けているけれど、自分を心配して泣いている彼女を見て、宏行の決心は脆くも崩れ去っていく。
「真冬、聞いてくれ。本当の事を話すから。」
「嫌!!言い訳なんて聞きたくない!!」
腕の中でもがく真冬に構わず、更に強く抱き締めると耳元に呟いた。
「本当は病院に行ってたんだ。」
宏行の言葉に真冬の動きが止まる。宏行は更に言葉を続けた。
「田神と会ってた。」
重い口をこじ開けて宏行は話し始める。彰人の見舞いに病院を訪れた時に田神が自分に言った『力になる』と言う言葉を。自分の痣や彰人の台詞については言葉を濁さざるを得なかったが、田神は犯人を特定する為の逆行催眠を行うつもりだと言う事を宏行は真冬に告げた。
「他言無用だと田神は言ってた。だけどそれだけが理由じゃない、俺は真冬に心配かけたくなかったんだ。隠しててごめん。」
「じゃあ、携帯が繋がらなかったのは……」
「院内だからな……電源は切ってたよ。」
抱き締めたまま話す宏行に応える様に、真冬は体を預けて宏行の背に腕を回していく。肩の上にそっと顎を乗せると真冬は呟いた。
「でも、そんな事で犯人がわかるのかしら?だって、それだけじゃ顔なんてわからないでしょ?」
当然とも言える真冬の問い掛け。本当は宏行が濁した言葉の裏に真実は隠されている。依然、鳴り止まない心の警鐘に宏行は躊躇っていた。首筋に現れる痣についての事を真冬に話していいのだろうかと。
「本当に田神っていう医者は信用出来るの?あたしは何だか……」
そこで真冬の言葉は途切れたが、その先の台詞など聞かなくてもわかっている。
信用出来ない……
そう言うつもりなのだろう。もっとも宏行自身、田神を全面的に信用しているとは言い難い。寧ろ胡散臭ささえ感じているのだ。ならば何故自分は田神に話してしまったのだろうか……
最初に襲われたのは無関係な人間。
その次は同じ学校の人間。
そして次はクラスメイト……
次第に犯人の標的は自分に近付いて来ている様に感じる。これは単なる偶然なのだろうか?もし田神の言う通りそうでないなら……
ならば次は……
次に狙われるのは……
ゴクリと宏行の喉が音を立てた。打つ手も無く時間だけが過ぎて行く。そんな状況を唯一打開出来る方法を示唆したのが田神なのだ。彼の思惑通りに事が運ぶのだとすれば、初めて攻勢に出る事が出来る。