中学2年三学期の思い出-4
「あけみ」と目が合う。と、同時に微笑まれた。決して可愛くは無いが悪い気はしない。
おもむろに「あけみ」が話しかけてきた。
「Y君・・・わたしの事全く覚えていないでしょう・・・小学生の時5年、6年と同じクラスだったのに・・・わたし池田 明美・・・」
池田明美?そういえば、いたようないないような・・・明確な記憶が全く無い。
「ごめん・・・覚えてない・・・」
寂しそうな笑顔を浮かべながら
「無理もないよね。いいの、いいの!ほとんど話したことも無かったしね。わたし友達全然いなかったから・・・でもね私はY君の事ちゃんと覚えてるよ!5年生の時運動会で一緒に組んで二人三脚やったの、今でもしっかり覚えてる・・・」
5年の時、二人三脚・・・そういえば運動会でやったなあ。
「わたし鈍間だから転んじゃって泣いちゃって・・・それで一位争いからビリになってクラスの子から凄い文句言われたのをY君が助けてくれて・・・今でも昨日の事のように覚えてる・・・」
悲しそうな表情で明美は話し続ける。
「Y君、みんなから文句言われてる所に来てしょうがないだろ!誰だって転びたくて転ぶわけじゃねえっ!て怒ったら、みんな静かになって・・・わたし凄い救われたんだ・・・結局Y君とちゃんと話できたのはそのあとなかった・・・ありがとうって言いたかったんだけど。それからなんとなく人と話すのが苦手になっちゃって・・・」
二人三脚・・・転んだ・・・思い出した。あのころの池田明美はショートカットだった。背140センチくらいで小さかったが、今は160センチ位だろうか、痩せているのは変わらないが成長期が一気に来たのだろう。
「思い出したよ・・・転んで泣いちゃったのも、ビリだったのも、俺が怒ったのも・・・だけどあれから全然話さなかったなあ・・・」
「もともと私自身があんまり話さない子だったし、それからは、なんとなく一人でいることが多くなったからしょうがないよ・・・」
それからしばらくはお互いの話をした。部活は特にやらず来年の受験で都立高校の上位高を目指して毎日図書室で勉強し、その後は週に3回塾に通っているらしい。ひとしきり話した後、部活が終わる由美子の元へと行く。
翌日、明美と同じクラスの部員にどんな感じの子なのか聞いてみた。かなりおとなしいらしく休憩時間なども一人でいる事が多いらしい。かといって嫌われたりしている訳でもないし話しかければ普通に話す子だという。
それからは図書室へ行くと明美から話しかけられるようになってしまい。女子トイレの覗きができなくなってしまった。普段あまり周囲と話をしないせいか、とても楽しそうに話す明美を邪険にするのも気が引けたのもあるが、だんだんいい子だなと思うようになったのもある。
明美は身長は160センチくらいで細身の体型、バストはB位だろうか、黒髪ロングのストレートでポニーテルにしている事が多い。見た目のイメージはお嬢様タイプだ。色白で決して顔は良くないがブスでもないごくごく普通だ。ここは由美子と被る。
色白で物静かなお嬢様タイプの明美と健康的に日焼けしてショートカット、活発な体育会系の由美子では、まるで正反対だが興味を持ち始めてしまった・・・
2月中旬、バレンタインの日。
由美子は部活だ。さぼってデートしようとしきりに誘われたが、由美子が部活終わるまでに宿題終わらせて、のんびりデートしようと押し切った。もしかしたら明美が何かしらアクションを起こしてくるかもしれないという密かな期待があったからだ。
放課後になり図書室へと向かう。まだ来ていないようだ。とりあえず適当に座って宿題を消化していると隣に明美がやってきた。コンコンと指で背中をつつくのがお互いの挨拶になっていた。明美からコンコンとしてきたので軽く手を上げて反応する。明美が小声で囁いてくる。
「Y君、ちょっとだけ廊下に来れないかな・・・」
来た!バレンタインモード。あとは本気モードなのか、義理モードなのかの見極めだ。俺の中では本気だったら由美子と並行してでも、明美から告られたら頂くつもりでここ何日か接してきた。かなりドキドキしながら廊下へと出る。
廊下にはまだパラパラと人がいて明美はキョロキョロと周囲の様子を伺って人がいなくなるタイミングを見計らっているようだ。空気を読んだ俺は、屋上へと誘う。屋上には出られないので屋上の踊り場には、この時間に人はまず来ない。
二人きりになると明美は紙袋を差し出してきた。
「Y君これ・・・わたしの気持ちです・・・受け取って下さい。Y君に彼女がいるのは知ってます。迷惑かもしれないけど・・・今日はこれで帰るね・・・」
明美は顔を真っ赤にしながら恥ずかしそうに言って階段を降りて行った。