伍-4
「なんでまた?」
「小太郎、おぬし睦事(むつみごと)はそこそこじゃが、計り事はいまいちじゃのう。方広寺の大仏殿再建を進めているのは秀頼。出来上がる鐘の銘に家康への呪いが混入しておれば、秀頼を糾弾できるであろうに」
「ああ、そういうことかい。家康は豊臣家を滅ぼしたがっているからなあ。秀頼に戦を仕掛けるきっかけを色々とこしらえてるんだな」
「そういうことじゃ」
「しかし、なぜそれを俺なんかに言う?」
「方広寺の鐘の銘文を考えることになりそうな人物が他にもいる。そやつは徳川の息の掛かっていない男。もしもそいつが秀頼に選ばれれば家康の計り事は水の泡。そこでじゃ小太郎、……おぬしにそやつを殺めてもらいたい」
「……誰を殺せばいいっていうんだ?」
「京は福知山、曹洞宗光明寺の住職、蓮聖」
「坊主殺しか。寝覚めが悪いなあ……」
「金は、たんと弾むぞえ」
「おばばの口約束だけじゃなあ……」
「ほれっ」
「……なんだい、この包みは」
「手付じゃ。金で四匁ほどある」
「ほう……」
「首尾良く蓮聖を葬れば、あと二包みやろう」
「おばば。……おめえ、一介の呪術師じゃねえとは思っていたが、ひょっとして八魔多の大将よりも格上か?」
小太郎が包みを懐に入れながら少し身構えたが、狐狸婆は手酌で酒を注ぎ、声もなく笑っていた。