〜 金曜日・仕草 〜-4
匂いつけ、つまり『マーキング』は、辛かった。 すでにおしっこを出し尽くした私は、息んでも気張っても、もうどうしたって放尿できない。 それでも先輩は遊具や植え込みの前で立ち止まり、その度に私は匂いを嗅いでから、しかたなく足を掲げた。 どうにか、チョロとでも尿で湿らせることができれば、先輩はそれで赦してくれた。 けれど１滴も出ないときは、地面に倒され、足で顔を踏みにじられる。 ワンワンと泣きながら許しを請う私に構わず、十発以上打ち据えられた。
スタイルも様々で、ある時は片脚をもちあげる雄犬式。 またある時は前足を地面につっぱり、後足で支えて腰を背後に突きだしたままマーキングする牝犬式。 どうやら遊具のような突起物に匂いをつける場合は雄犬式で、芝生のような平地につけるには牝犬式が求められるらしい。
ボールを咥えに走ったり、匂いを嗅いだり、放尿させられたり。 自分なりに頑張って犬の真似をしながら私はグランドを一周した。 そうしてようやく下足棟前に戻ってきた。
ここで最後に、大きい方の排泄が待っている。 特にヒントがあったわけじゃなかったけれど、先輩の雰囲気から、私は容易に想像がついた。 尻尾がついたプラグを握りしめると、中から湿った液体が直腸内に放たれる。 急にお腹がキュルッとなった。 液体のヌメりにあわせて先輩がプラグを抜いてくれた肛門は、すっかり広がったまま筋肉がゆるんでしまって力が入らない。 これでいいのだろうか？ 今後待ち受ける展開が私の想像通りだとしよう。 このままだと肛門で太さの調節ができず、極太のモノを落してしまう。 ちゃんと締めてから排便しなければいけないのでは？ 正直不安で、自分に自信があるわけもなくて、間違って鞭で躾けられることを思うと背筋がこわばる。 本当だったら誰にも伺いをたてることなく自分で即座に動くべきなんだろうけれど、次の一歩が踏み出せなくて、私は風が直腸内壁を撫でてスカスカするお尻をそっと先輩にさしだした。 すると、それまで無反応だった先輩がコクリと頷いてくれた。 なんとなく、構わないから排泄しなさい、そういっているような気がして、いっぺんに気持ちが楽になった。
牝犬式からもう一段お尻をかかげ、めいいっぱい後ろに腰をせりださせる。 あとは心の問題だ。 青空の下、みんなに見られながら、整地された綺麗なグラウンドに茶色い汚物を落すこと、決して恥ずかしくないわけじゃない。 けれど今の私はヒトではなくて牝犬だ。 牝犬であれば、恥ずかしいことなんて何もない。 心の整理をつければいい。
すでに心の準備はできた。 何しろ私は犬で、先輩の命令に絶対服従する身分だ。 鞭が痛くて怖くて辛くて、それ以外は考えられない存在だ。 羞恥心なんてどこかに置き忘れた、ミジメで卑しい生き物なのだ。
「ふ……ん……ふぅん……わん！」
むり、みち、ムリムリムリ……ボタッ、ボタリ。
朝に『ご挨拶』で大半を排泄した割りに、立派な黒い戸愚呂を捻りだすことができた。
あとは片付けだ。 先輩がポケットからティッシュをだし、私のお尻を拭ってくれた。 一度拭くたび、ティッシュを私の鼻先にもってくる。 所々黒ずんだ、基本的には茶色いシミがついたティッシュ。 鼻先ということは、つまりそういうことだ。 私は自分が放った汚臭を、さっきまで匂い嗅ぎでしたように、くんかくんかと貪った。 生臭くて、恥ずかしくて、とってもとっても臭かった。
６回ほどティッシュで拭き、そのティッシュを戸愚呂に重ねる。 そうしておいて、先輩はビニール袋をとりだし、私の口に押し込んだ。 いや、押し込むというよりは『張りつける』というべきか。 ここも、何も説明されないうちに、私は自分がどうするべきか分かった。
「わふ……わむ……」
思いっきり、顎が外れるくらいに口を拡げる。 こうすればどうにかなりそうだ。 私はビニール越しに、口全体でティッシュと大便を包み込んだ。 ビニール越しに感じる大便は生暖かい。 強烈な異臭よりもその温もりが悍（おぞ）ましくて、数日前にさんざん汚物を口に含んでいなかったら、きっと嘔吐していただろう。 ビニール一枚とはいえ直接大便を食しているわけじゃないという認識が、かろうじて私の理性を繋ぎとめる。 そのまま口の先を閉じ、ビニールの中に汚物のすべてを纏めることができた。 先輩が無造作に私のくちを開き、ビニールの口を縛ってくれたので、これで一息つける。 あとは私がビニールの結び目を咥え、自分が放つ汚臭を鼻先に嗅ぎ続けながら、教室に持ちかえればいい。
歩き始めた先輩に寄り添う。 下足棟で手足を床マットでゴシゴシ擦ってから、渡り廊下と階段を抜け、私はＣ棟の教室に戻った。 先輩は私の排泄物をビニールごと口からだしてくれて、途中の生ごみ入れに処分してくれた。 自分の息は、それでもしばらくの間ウンチ臭かった。
教室ではスクリーンに映った私たちの様子を鑑賞しながら、みんなが荒い息遣いで股間を揉みしだいており、確かに１時間中マンズリに興じさせられていたのだろう。 やがて５組の体育委員と牝犬が教室に戻ってきて、講義の終了を告げるチャイムが鳴ったのだった。