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プラネタリウム
【ラブコメ 官能小説】

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L-5

陽向は考えた。
今までこの3人と過ごしてきた日々を。
最初は大学生のクソバンドだった。
洋楽のスカパンクをコピーをしていたけど、オリジナルに欲が出て、大介に頼んだ。
曲を創ると言って出来たのは、ありふれすぎた音でその世の中に紛れていった。
いわば、ノリ重視で何かのパクりにしか聴こえないやつだった。
それでもスカパンクは捨てきれないし、ロックもまた然りだった。
その頃からメロコアが流行り始め技術を求める世界となり、タイミングやメロにスカを取り入れる曲が増えていった。
それもまたありきだったけど、なんか違うと思って試行錯誤して、結局スカパンクとロックで貫こうとなったのだ。
マイナー調の曲が多く、縦に頭を振るような曲が多い中、ずっとずっとずーっと、スタイルを崩さずに明るい曲ばかりをやってきた。
ダンスさえ出来そうなやつも。
中には涙を堪えて歌うものもある。
それが目の前にいる人に届いているかは分からないけれど、涙する曲は幾つもある。
それを分かってくれる人は他にいない。
…君たちなんだ。

「…行く」
陽向は言った。
「みんなと、行く。何処にでも。一緒に楽しめるならそれ以上に幸せなことはない」

真面目な話をしていたので3割くらいしか酔っ払わなかった。
帰宅すると湊がペペギターを片手に考え事をしていた。
「ただいま」
「おー、おかえり」
「曲作ってんの?」
陽向はバッグをクローゼットにしまいながら言った。
「そーそ。こんなん出来る時間、あんまねーから」
「だよね」
「仕事に殺されそう」
「あははっ!なくもない」
湊の隣に座りながら、先ほどの飲みかけのアイスコーヒーに口をつける。
コップがひどく汗をかいていて、指の間からポトポトと滴った。
それでも、飲む。
「なんの話だったの?」
湊は陽向をチラッと見た。
目と指はコードを追ったままだ。
陽向は包み隠さず全部話した。
全国10ヶ所を周る、と。
湊はマイナー調の音を出した後、いきなりスカの曲調に入った。
そして突然止まる。
「いまの俺の心境」
「えぇ?!意味わかんないよ」
陽向は笑って湊の肩を叩いた。
「どんどんお前が遠くに行っちゃう」
「……」
「俺はもっともっと腕を磨きたいって思ってる。…今の仕事もそうだし音楽もそう。だけど音楽は本当におざなりになってる。りょーちゃんもジョージもみんな忙しいんだよ。でも…それでもお前は忙しい中、そーやって可能性を追求してどこまでも行こうとする。羨ましいしか言葉が出ねぇよ」
「あたしはやりたいことがあるから、失敗しても成功してもそれが実力だと思うし……もし仮に失敗したとしても、それが間違いだったとは思いたくない。だからみんなと行くって決めたの。羨ましいとか言われたくない。確かにいい話かもしれないけど………本当はすごく怖い」
陽向は俯いて床を見た。
木の木目。
ホコリはない。
「いつから行くの?」
湊が不意に抱きしめる。
「…再来週だと思う」
「お前は身体弱いんだから、無理すんじゃねーぞ」
「分かってるよ…」
温かい温もりに涙が溢れる。
否定されると思ってた。
男3人と女1人で、新幹線では帰って来れない地方まで行くとなったら泊りがけだ。
そんなプランは3つほどある。
それでも湊はマイナスなことは言わなかった。
きっと音楽に関しては、自分も同じくらいの思いがあるからなんだろう。

隣り合った布団。
湊が「ひな坊、こっち来て」って言うから、その言葉に従った。
何度となく甘いキスと愛撫が身体を包み込む。
湊…大好き。
繋がってるこの瞬間も、ちょっと意地悪なところも。
ホントは独占欲が強くて、人一倍あたしのことを愛してくれてることも知ってるよ。
そう、感じるから。
胸の中に勝手にスッと入ってあたしを狂わせる、そんな湊が好き。
一つ周りと違うのは、心の器だよね。
お互いに溢れんばかりの感情があっても決して器からは零れない。
零れたらきっと湊はあたしを突き放すだろうし、あたしは泣き叫んで連絡すら取らないと思う。
それくらい意地っ張りな2人だから。
今でもこうしてお互いを思って愛しあえるのは、お互いを知ったから。
目標があってそれに向かって頑張る姿、何気ない事で喜びを感じる時、自分にないものを持っているその思考、互いに尊敬し合える環境…。
湊がいなきゃ、こんなに人として成長できることはなかった。
いつも貶してばっかりだけど、その人生が羨ましいと思ってた。

「ひな…」
「ん…」
「髪伸びたね」
「気づかなかった…そうかも」
湊にしっかりしがみつきながら陽向は答えた。
優しく頭を撫でてくれる。
今までセックスした中で一番気持ち良かった。
今はただ、余韻に浸りたい…。
「湊…」
「なに?」
「なんで優しくしてくれたの?」
「なんでかねぇ?」
湊はフッと笑って陽向を抱きしめた。
「強い女が好きなの、俺。強がりじゃなくて、本気で強いやつ」
「どーゆーこと…?」
「メンタルはやや弱い系かもしんねーけど、自分がこうしたい!って思ったら突っ走るタイプだろ?良くも悪くもね?お前はそーゆーやつなの。付き合う前から思ってた。芯の通った人間なんだろーなって」
「……」
「だから、そーゆー人が好きなの」
湊は陽向の自然と流れる涙を拭いながら「泣かないの」と笑った。
「俺は今でも嫉妬してる。お前のバンドに。だからこそ、やってほしい。お前なら絶対できるから」
湊は陽向を思い切り抱き締めて「がんばれよ」と言った。
涙腺が崩壊する。
わんわん泣いた。
知らない土地で音楽を晒すことは、恐怖でしかない。
全然有名でもないなんでもないバンドが現れてウェーイ!とか頭おかしいし。
どんなスタンスで行ったらいいのかも分からない…。
でも、湊のその言葉に背中を押された気がした。


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