第三話-5
そんな中。
「おおおっ!素晴らしいっ!」
「このコは90点、いや、95点あげちゃおう!」
歓声とともに、早くも一人目の合格者を告げる言葉が木霊した。
大河内ほどではないが、やはり数人の男が群がっている女性。
その人だかりの中央からは、間延びした甲高い声が響いている。
「ふみゃぁ〜。みんな、みゆちんを応援してくれて、ありがとなのですっ☆
お兄ちゃんたちのこと、みゆちん、ラヴラヴ♥になっちゃうかもぉ〜。」
ツインテールをぴょんぴょん跳ねさせ、ファンシーな動きで
男達に向かって大きな瞳の片方をぱちっと閉じてウインクを送っているのは
ロリータ体型の、如月に一方的に因縁をつけられていた女。
「はい、最初の合格者が出ましたよ〜。
遠峯深雪さん、クリア第1号。好タイムに高得点、非常に優秀な人材ですね。」
グラマー女が高らかに宣告すると、皆驚きの表情でそちらを向いた。
「なっ!?」
「あの子、確か途中から寝てたのよ!?」
女の一人が言う通り、遠峯は大河内から貰ったアメを舐め終えた後
立ったまま器用にこっくりこっくりと船をこぎつつ居眠りしていたのだった。
妙に静かだったのはそのためで、目を覚ました時にはすでに周りを男達に囲まれた後。
そのまま、自分が何をさせられているのかもよく解らないまま
ただ、周りの男達の言葉に答えていただけで、この状況である。
「遠峯深雪……誰かと思えば、あ、あの頭ぽんこつ女!
あんなのに、この私が遅れをとったっていうの!?」
「ま、まさか、彼女がトップ通過だなんて……!」
特に、如月と藤堂の二人にとって、彼女に先を越されたというのは
プライドを大きく傷つけられる事実である。
その表情には驚愕と、焦り、苛立ちが一度に浮かび上がっていた。
「いやぁ〜、こんなロリータみたいな可愛い娘が職場にいると
華やかになるねぇ〜。」
「ふみゅっ!お兄ちゃん、みゆちんはロリロリぼでぃーでも
ちゃんともう大人の女の子なんだよっ☆
エッチな事とかも、ちゃ〜んと知ってるんだからっ。ほら……チュッ♥」
「うおおおぉっ!たまらんっ!」
「みゆち〜ん、俺にも俺にも!」
意味ありげに言ってから
一人に向かって大げさな動きで投げキッスをしてみせる遠峯。
そのあざといほどの言動は、ロリータ好きで集まっている男達をより喜ばせ
異様な盛り上がりを形成していた。
「くっ!あんなの、アイツみたいに頭が緩くなきゃ出来ないわよっ!」
「あら、少なくともこの場において、いえ、これから先を担うセクハラ枠の社員として
一番賢いのは、今のところ彼女よ?反対に、一番使えないのが
現状一番点数の低い貴女。同点でもう一人いるけど。」
「う、うるさいわねっ!」
如月は憎々しげに吐き捨てるが、そんな彼女を間髪入れずに斬り捨てるグラマー女。
なおも憎まれ口を叩いてはみせたが、実際自分が一番低評価なのはイヤという程解っており
やり場の無い怒りに身震いしていた。
一方、そんな如月以上に、藤堂は女の言っている「もう一人」というのが暗に自分を指していると理解し
これ以上ない屈辱に包まれている。
使えない。人間は能力こそ重要で、そして自分はそれなりに優秀な方だと思っていた人間には
この言葉は今の自己を全否定されたに等しい。