だって悪魔だもん。-3
第四章
チコリーに俺が悪魔だってことは正直に告白した。実際、俺は彼女がそんな事は気にしないでくれる、そう思っていた。
「いいのよ、そんな事。アーティさえ気にしなければ、今までどおり遊びに来て。」
彼女の返事は思ったとおりだった。でもそう答えるチコリーはひどく寂しそうに見えた。
チコリー、俺が帰った後は誰とも話さないって言ってたな。病気がうつるかもしれないからだれも話さないって。なんかまるで仲間はずれみたいだな。それじゃあまるっきり俺と同じみたいだ。でもね、悪魔は本当に辛いんだ。俺は、なんていうか元気だから耐えられたけど、彼女が耐える姿は見たくないな。彼女は悪魔じゃない。悪魔は、恨まれ役はこの俺一人で十分だ。そうだろ?神様!
だから俺、彼女に意地悪しようと思った。それもとびっきりのやつね。だってそうすれば彼女の人生が有利に進む。もしかしたら奇跡が起こるかもしれない。俺は意を決して病院へと向かった。
いつもの病室、いつものベッド、それといつもの彼女だ。
「やあチコリー、今日は元気かい?」
「あら、こんにちは、アーティ。今日も元気じゃないわよ。あたしは病人なんですからね」
いつもこんな風に彼女はジョークを言ってくれるから楽しくて仕方がない。本当に生きていてほしいよ。たとえこの身を犠牲にしても!
「ねえチコリー、今日はとても残念なお知らせがあるんだ。」
「あら、なあに?」
「実はね、今日は君に意地悪をしにきたんだ。」
あいかわらずチコリーは目を細めてニコニコしている。別におどろいた様子もない。
「まあ、それは楽しみね。一体どんなことされちゃうのかしら?」
やっぱりいつもの冗談だと思っている。無理もないか、今までだってこうやってからかったりしてたんだから。でもねチコリー、今日の俺は本気だよ!
「君の大切なものを一つ、壊してしまうのさ。」
チコリーはワクワクした目で俺を見ている。その顔はこの前19歳の誕生日を迎えたばかりにしては幼く見える。俺とは二つしか違わないから、まるで妹のようだ。
「ねえチコリー、俺は君にとって大事な人かな。」
「どうしたの?突然。」
俺はそっと開いた窓のふちに腰掛けた。外は秋の日差しがまぶしかった。
「俺がもし黙って君の前から姿を消したら、俺のことを嫌いになるかい?」
「…そうね、そういうのって腹が立つわね。でもどうして?今日は何だかいつもと違うみたいね」
そっか、よかった。ちゃんと真面目に考えてくれた。それに俺のことを嫌うきっかけも
これで…
「さよなら。」
俺は窓から身を投げた。ここは12階だ、どう考えても助かりっこない。ああ、一年間
だけだったけど、彼女と過ごした日々は楽しかったな。今なら全部思い出せるよ。冬の寒
い日は小さな雪だるまをつくって持っていってあげたらすごく喜んでくれたっけ。夏はかき氷を一緒に食べたな。いつもチコリーはニコニコしてるからつられて俺もニコニコしちゃうんだよな。それと他に…ああ、もう時間みたいだ。地面が近づいてくる。チコリーはちゃんと俺を恨んでくれるかな。病気はきっと治るよね?神様、もうこれで最後だから、あと一つだけお願いを聞いてください。彼女から、どうか俺の記憶を消してください。本当はね、伝えたいことがあったんだ。でもそれを言っちゃうと未練が残るから。でもやっぱり伝えたかったな。今ここで言ってもきっと聞こえないよね。
今度もし人間に生まれ変われるなら、自分が愛している人にその気持ちを伝えられる、そんな人生が送れたらいいな。
「チコリー、愛してるよ。」