第二話-1
女の言葉に対して、室内の新入社員達の反応は
ただただ、沈黙であった。
何も返す言葉がない、というより、理解も把握もできていないといった方が的確か。
セクハラ枠、セクハラ研修。
現実味のない突飛な語彙に対して、まだ耳を疑っている一同。
時折、隣の人間と顔を見合わせて、首を傾げる程度の動きしかとれない。
「聞こえませんでしたか?皆さんは、セクハラ枠として
弊社に採用されたのです。ですので、一般の新入社員とは
異なる、セクハラのための研修を受けて頂きます。」
やはり、聞き間違いではなかった。
前に立つ、グラマラスで露出の多い女性は再度高らかに言い放つ。
「ち、ちょっと、妙な冗談は止めなさいよ!」
口火を切ったのは、先ほど同様、モデル体型の女であった。
困惑と怒りの混じった表情で、睨みつけるようにしながら前に進み出る。
「冗談ではありません。本気です。」
グラマー女はそんな抗議に対しても
全く意に介さず、事も無げに言い放つ。
「……だったら、こっちも本気で言ってあげる。
ふざけたマネしてると、こっちにも考えがあるわよ?
私の父は、それなりに名の知れた――」
「貴女、如月玲奈さん、ね?」
「!? え、ええ、そうよ。」
食ってかかるモデル体型女、もとい如月の言葉を涼しい顔で制して
グラマー女は手に持つ資料らしき数枚の紙を捲りつつ
彼女の顔と何度も見比べた。
「如月玲奈、星雲大学、芸術学部卒。
……聞くけれど、この学歴で、本気でウチへ入れると思ったのかしら?」
「!」
「弊社が採用する人間の最低水準の学歴を貴女はかなり下回ってるわ。
まぁ、この履歴書を引っ下げてノコノコ身の程知らずに
ウチの求人に応募してきた、その度胸だけは大したものだけど。」
「な、何ですって!!!」
皮肉たっぷりの辛辣な言葉をあけすけに言い放たれて
自尊心を痛く傷付けられた如月は、顔を著しく紅潮させて飛び掛らん勢いで歩を進める。
「そして、そうやってすぐ感情を身勝手に爆発させて当り散らす人間性。
組織の人間としては、下の下。学歴以外の部分も最低ね。
お父様はそれなりに名の知れた資産家らしいけど、貴女の経歴は恥じているんじゃない?」
「こ、この……!」
「どうせ、弊社を受けた理由も、お父様や周囲の人間に対する見栄なのではなくて?
私は、一流企業の就職面接を受けている、というポーズを見せる事で
中途半端な自分自身の学歴やこれまでの人生も覆い隠して、欺瞞に満ちた日々を送っていたのでしょう。」
「くっ、い、言わせておけば……!!」
血管が切れるのではないかという程、顔を真っ赤に染めた如月。
しかし、その口から出る言葉は、何一つ反論ができていない。
それは、浴びせられている侮辱が全くの的外れではなく
少なからず正鵠を射ている事を如実に表していた。
「いいですか、皆さん!ハッキリ申し上げておきます!」
グラマー女は、そんな如月にはもう一瞥もくれずに
他の社員達を見渡して、声を張り上げた。