レイプの代償-2
ぴんぽーん……。ゆっくりと店の呼び鈴が鳴らされた。真雪は入り口のドアを開けて微笑んだ。
「鷹匠くん。待ってたよ。さ、入って」
「嬉しいねえ……。真雪さんとまたエッチができるかと思うと」
「露骨だよ」真雪は笑いながらドアを閉め、内鍵を閉めて鷹匠を奥のスタッフルームに案内した。
ソファに座って、着ていたTシャツを脱ぎ始めた鷹匠に真雪は言った。「慌てないで、鷹匠くん。時間はたっぷりあるじゃない。少し落ち着いてお話でもしようよ」
鷹匠は上半身ハダカになった状態で首をすくめた。「そりゃそうだ。焦りすぎだね、僕」
「ふふ……」真雪は笑ってデキャンタから二つのカップにコーヒーを注いだ。
鷹匠はTシャツを着直して、真雪が勧めたコーヒーカップを手に取った。そして一口飲んだ後、真雪を見ながら口を開いた。「真雪さんから誘ってもらえるなんて思ってなかったからさ、何て言うか……」
「ずっとあたしのこと、気にしてたんでしょ? 望みが叶ったってことじゃない」
「そりゃそうだけど……」鷹匠はまた一口コーヒーを飲んだ。
「あたしね、鷹匠くんに刃物で脅されてレイプされたこと、きっと一生忘れないと思うよ」
「え?」鷹匠は思わず顔を上げた。
「イきたくもないのに、イかされて……。あんな屈辱的なこと、生まれて初めてだったからね」
「屈辱的? だって君だって気持ち良くなれたんだろ?」鷹匠は動揺したように早口で言った。
真雪の口調が真剣味を帯びた。「身体は感じても、心まであなたに奪われたわけじゃない。甘く見ないで。女って、そんな単純なものじゃないってこと、知っといた方がいいね」
「じゃ、じゃあ、どうして今夜僕を誘ったんだ?」鷹匠の目が泳ぎ始めた。
「誘ったんじゃないよ」
「え? ど、どういうこと?」
「おびき寄せたんだよ。……復讐するために……」
「な、なんだと?!」鷹匠は思わず立ち上がった。しかし、足下がふらつき、ソファの背もたれに手をついた。「え?」
「どうしたの? 鷹匠くん。具合でも悪いの?」真雪は微笑みながらコーヒーを飲み、上目遣いでその男を見た。
「そ、そういうことなら、またおまえをレイプしてやる!」鷹匠は真雪に近づき腕を掴んだ。
「そこまでだ! 鷹匠!」部屋の奥から声がした。
「えっ?!」
修平が姿を現した。そしてつかつかと鷹匠に歩み寄ると、肩を掴んで自分の方を向かせた。
ばきっ!
修平の拳が鷹匠の左頬に炸裂した。鷹匠は吹っ飛ばされて床に転がった。
唇を震わせながら鷹匠は目の前に仁王立ちになっている修平を見上げた。「お、おまえっ!」
「鷹匠、てめえとことん根性腐ってやがるな。高校ン時からマトモじゃなかったけどよ」
「おまえ、正平、たしか天丼正平!」
「天丼じゃねえっ! 『天道』だっ! それに名前もちげーよ! 『修平』だ、『修平』!」
「な、なんでおまえがここにいるんだ」鷹匠はよろよろと立ち上がった。
「真雪の為に一肌脱ぐんだよ。それに俺自身、てめえみてえな悪党、成敗しなきゃ気が済まねえんだよっ!」
「ど、どうするつもりなんだ……」
「てめえのやったこたあ、犯罪だ。何なら俺のカミさんに知らせて逮捕してもらってもいいんだぜ」
「カミさん?」
「てめえも知ってんだろ? 同級生だったんだからよ。夏輝だ。今、そこの警察署の警部やってるよ」
「な、夏輝? もしかして日向夏輝さんなのか? おまえのカミさんって」
修平は眉をひそめた。「なんだよ、『夏輝さん』って。妙に丁寧な言い方しやがって」
「僕、彼女ともセックスしたいって思ってたんだ」
ばきっ!
修平の拳が鷹匠の左頬に炸裂した。鷹匠は吹っ飛ばされて床に転がった。
「しゅ、しゅうちゃん、もういいよ」真雪が立ち上がって言った。「そろそろ薬が効いてくる頃だし」
「く、薬?」鷹匠は床にへたり込んだまま二人を不安げに見上げた。
「どうだ? 鷹匠、気分良くなってきただろ?」修平は鷹匠の前にしゃがんでにたにた笑いながら言った。
「ひ、卑怯だぞ! こ、これこそ犯罪じゃ……ないか……」
ぱたっ。
鷹匠は気を失って床にのびた。
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