第一話-1
ここは、世にその名を馳せる、いわゆる一流企業のひとつ。
社員になる事さえできれば、そこそこに裕福で安定した暮らしが約束される。
自分の人生を華やかなものにするため
毎年の新卒募集には多くの人間が大挙し
高倍率の選別に勝ち残るのは我なりと
日々アピール合戦を繰り広げるのであった。
やがて激戦にも終止符が打たれる。
無数に転がる脱落者たちの屍を踏み越えて
晴れて栄華な人生の道を渡る権利を得た数百人の新入社員たち。
入社式では、男女とも、一様に真新しいスーツに身を包み
散髪したての髪に整髪料の香りを漂わせ
誇らしげな表情で壇上の社長挨拶を静聴していた。
これから先、自らが築き上げるであろうサクセスストーリーを信じて。
入社した後、彼らに最初に待っていた大きなイベントは
2泊3日の泊り込みで行われる
合同の新人研修会だ。
一日の大半を大きな講堂で過ごし
社会人としてのマナー指導
特定の界隈では著名な講師を招いてのセミナー
退屈なレクリエーション
などなど、ひたすら欠伸を堪えつつ
携帯端末でも弄りたくなる一時が続く。
参加した新入社員達は、この苦痛以外の何者でもない時間に
揃って内心辟易していたが、勝ち組人生を謳歌するためには
誰もが処理しなければならぬ、通過儀礼のひとつ。
と諦観しつつ、与えられる課題を黙々とこなした。